(やっぱり駄目だ…)

一年のブランクは大きかった。
再入団のための適性試験の結果はズタボロでスレスレ、卒業試験の時にも言われた『各技能は高いが決定打に欠ける』が脳内をリフレインする。
立体機動も格闘も馬術もそこそこ出来るけれど、体格のせいか力が足りない場面が多すぎた。

(リリー、お母さんは仕事復帰出来るか不安になってきたよ…)

一年間心の支えだったリリーが手元にいないのも、不安を加速させる。こんなんで次の壁外調査はうまくいけるんだろうか。

しばらく兵舎の練兵場で黄昏ていたけれど、腹の虫にうながされ食堂に移動した。落ち込んでいても食欲には逆らえない、ごはんおいしい。

「あれ?ナナ調査兵団に戻ったのかい?」

名前を呼ばれて食事から顔を上げるとハンジさんとミケさんがいた。二人とも調査兵団の古株だ。

「今日から戻ったんですよ」
「今まで音沙汰無いから死んだんじゃないかとみんな心配してたんだよ。で、どの班に入る事になったの?私の班?巨人の研究とか興味あっただろう?」

ハンジさんは相変わらず巨人の事となると我を忘れるみたいで、ここ一年の巨人研究の話を始めた。これが無ければ凄くいい人だと思う。復帰するなら知り合いのいる班がよかったな。

「……リヴァイ…兵長?の班だそうです。噂を聞いたんですけれど、リヴァイ兵長って凄い有名なんですか?」

適性試験の時に若手の兵士に聞いたのだけれど、私の新しい上司はたった一人で調査兵団のエースで一個師団並の力を持っているという。パッと見そんな怪物には見えないが。

「ナナが知らないって方が驚きだな」
「えー?」
「この一年、どんな生活してたらそんなに世間知らずでいられるのさ」

ミケさんにほっぺをのばされた。健康優良だね身長以外は、とハンジさんが言う。身長の事はほっといて欲しい、いまだに子供に見られるのが訓練兵になって以来の悩みだ。たぶんこの調査兵団で一番低いだろう。

「ずうっと子育てしてたんです」
「子育て!?結婚したのか!?」

十六で結婚か〜先を越されたよねミケ〜なんて喋るハンジさんの言葉が鋭い刺のように私を刺す。私は結婚どころか、まだ誰とも付き合った事がない。悲しい。

「いいえ、養子を貰ったんですよ。結婚の話はしないでください、ハンジさんも知ってるでしょ?一年前の失恋…」

一年前を思い出し赤くなっておどおどしていたら、いつの間にかミケさんが背後にまわって匂いを嗅いでいた。
そして鼻で笑われた。いつもの事なのにこのタイミングだと凄くムカつく。

ハンジさんが「リヴァイの部下は面倒くさいよ〜」なんて言ってたけれど、まあ悪い人じゃ無さそうだし大したこと無いよね、とタカをくくっていた事を後悔した。

午後からリヴァイ兵長について仕事を始めたのだけど、エルヴィン団長と違ってキツい。厳しいっていうか我儘っていうか…我が道を行く系の人だっていうことが嫌って程にわかった。
やれ書類整理の仕方が甘いとか、机の使い方が汚いとか、装備の整備をしていたら扱いが雑だとか、その上。

「適性試験の結果を聞いたぞ。明日の訓練が楽しみだな、エルヴィンがスカウトする程の実力を見せてもらおうか」

仕事の終わりぎわ、リヴァイ兵長は私を見下ろしながら底意地の悪そうな笑みで言った。
なんて事だ、明日は実戦訓練をリヴァイ兵長と行う予定だ。
その後は不安で夕飯の味も良くわからないまま、あまり眠れずに朝になってしまった。

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