「待って下さい!!リ…リヴァイ兵長?着いてこいってどこへ行くんですか」

エルヴィンに連れてこられた用事も終わって、さっさと兵舎に戻ろうと支援者の屋敷を出ようとすると、先程勧誘していた兵士が追いかけてきた。
色素の薄い髪と目、育ちをうかがわせる無駄のない動きは調査兵団のどの兵とも似ていない。

そいつは兵士というが身長は俺より10p以上低く、体も細い。本当に卒業できたのかが不思議でならないが、一年前のシガンシナ地区陥落の際の戦歴は三軍の中では知らない者はいないという程に噂になっていた。非戦闘員を率いての撤退戦を最小限の被害で成功させた英雄だと。

まあ、噂には大抵尾ひれがつくものだ。
振り向いた廊下をチョロチョロ走るナナ・ノームは、この一年間、本人は気付いていないだろうが軟禁され、居場所を秘匿されてきた。目立つのを嫌う当主の仕業だろう、仕事相手である調査兵団のエルヴィンですら嗅ぎ付けなかった。
だが、先日彼女の母親と祖父がトロスト区の駐屯兵団に復帰した事に気付き、勧誘に来たのだが…

「…お前面白いな」

少し歩いただけでもわかる、こいつの体のバランスは凄い。誰しもある癖が無い、いや無い事はないのだろうが少ないのだろう。筋肉の動きを必要最小限にし、効果的に使用している。惜しむらくは体格か。

見上げてくる小動物に興味がわいてきた。

「今日から部下だって事は、今から調査兵団に行かなくちゃいけないんですよね?」
「そうだな」
「にっ荷物!今すぐまとめるんでちょっとだけ玄関で待ってて下さい!!」

そう言った瞬間、血相変えて屋敷の奥へ飛んでいった。まあ、今日やることも特に無いし、エルヴィンは当主との口論が終わらないみたいで部屋から出ても来ない。暇だしこいつに着いて行く事にした。

ナナ・ノームの部屋はこざっぱりとしていた、壁の崩壊から今までたった一年だ、たいした荷物も無いのだろう。だが、片手に『荷物』を抱えているせいか手間取っていた。

「すみません兵長、ちょっとの間だけこの子を見ててくれませんか?荷物まとめるのに両手使いたいので」
「ああ、かまわない。こっちによこせ」

怖くないよとか失礼な事をささやいてガキをこっちによこしやがった。どうも先程からの会話から察するに俺の事を知らないらしい。指さされるのも嫌だが、箱入り娘に無視されるのも気にくわない。

「俺の隊に入れるにあたって、お前の正確な実力を知りたい。一年前に何体巨人を倒した?」

質問をした途端、部屋の空気が重くなる。地雷を踏んだか?実は噂と違って一体も倒したことが無いとかか?

「五体です」
「新米が一人で五体か、凄いな」

調査兵団は行って帰ってこれれば一人前、新米が五体は優秀だ。

「全然凄くなんか無いです。私が倒せたのはたくさんの人が食べられて囮になったからです、私は…私は襲われた人を助ける事ができなかった」

「……完璧な兵士などいないだろ、気に病む「あっ!駄目よリリー!!それは私の外套じゃないんだからオモチャにしたらいけないわ」

何を叫んでいるんだとガキに目をやると、俺の外套をおしゃぶりにしていやがった。
親も気にくわないがガキも気にくわない。


「兵舎に帰ったら洗え、最初の仕事だ」
「…ハイ」

ガキを当主に預け、エルヴィンを回収した時には疲労感でいっぱいだった。
今日からこいつには、この労力に見合った仕事を押し付けてやる。

「知らないうちにだいぶ仲良くなった様でよかったよ」

三人のうちエルヴィンだけが気楽そうな顔をして兵舎に戻った。

prev next
back

- ナノ -