昼間だというのに不気味なほどに人の少ない道の先に、顔色の無い子供を二人連れた駐屯兵団が見えた。
「ハンネス!!その子達は!?向こうはどうなっている!?」
「知り合いの子供たちだ、安全な場所まで連れていく。向こうはもう駄目だ、どの道を進んでも巨人ばかりだ…」
「そんな…」
母さんと一緒に馬を走らせ、急いで外側に向かったけれど遅かったみたいだ。
でも、まだ私にはやれる事がある。
今、調査兵団はこの街に私一人。私だけが巨人と戦った実績があるんだ、私が街を守らなきゃ!
「母さんはその人と立体機動を使って、子供たちをウォール・マリアまで連れていって、私は後から行くわ」
「ナナ?」
母さんが信じられないという顔をして私を見るけれど、無視をして女の子を母さんの体にくくりつける。男の子はハンネスさんが抱き上げた、一人ずつなら飛べるはずだ。
「私が、しんがりをつとめる。巨人の足は速いから、少しでも逃げる時間をかせぐべきだわ。馬は置いていって、逃げ遅れた人に使いたい」
きっと、まだ逃げ遅れた人がいる。
私なら、まだ間に合うはず。
「あなた何を考えているの!?あなたは壁外調査から帰ってきたばかりで判断力がおかしくなっているわ、巨人に立ち向かうなんて無謀よ」
「母さん、説教は姉さんの家でゆっくり聞くわ。とにかく逃げて、逃げて姉さんの屋敷で会いましょう」
「っ馬鹿!」
そう言って母さんは私に背を向けて走り出した。それを確認してから、私は前へ一歩踏み出した。
あの足の震えは不思議と止まっていた。
(……酷い)
街は巨人であふれていて、壊された扉から次々と入ってくる。初めて巨人を何体か倒せたけれど、捕まった人を助ける事はできなかったし刀の替えももうない、私一人で倒しきる事は不可能だ。
この近辺に残っていた人は私と母さんが乗ってきた馬に乗せて逃がしたし、十分私にできることはできた。
屋根の上に登って街を見下ろした、人は見当たらない。もう撤退しよう…
(泣き声!?)
かすかに子供の泣き声が聞こえて、急いで飛び降りると大きな岩の下に人が押し潰されていた。辺りは血の海で、生きているけれどもう助からないだろう。
「お願いします、この子を、この子を連れていって…」
潰されている女の人は必死に私にかたりかけ、腕のなかの包みを差し出した。泣き声が大きくなる、赤ちゃんだ。怪我はひとつもない。
「北へ…早くウォール・マリアへ…お願いします」
「わかったわ。あなたとこの子の名前は?」
「この子の…名前は…リリー……」
「いい名前ね」
私がそう答えて赤ちゃんを受け取ると、彼女は満足気な笑顔で息絶えた。
「―――北へ行かなきゃ」
生きなくては、ウォール・マリアの内側に逃げなくては、この街シガンシナは地獄だ。
私はこの子の生きていく場所へ、北へと飛び立った。
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