「……うっ」

ナナの苦しそうなうめき声が兵舎裏に響いた。

調査兵団本部まで帰ってきてから二日目、面倒臭い上への報告書を纏める為に部下であるナナに手伝わせようと呼びつけたら、しきりにため息をつきながら足や腕を擦るので理由を問い詰めると「筋肉痛」とかいう兵士としてあり得ない回答だったので、問答無用で鍛練に引きずり出した。

この前の壁外調査や事前訓練からは想像できなかったが、訓練兵時代の成績が卒業スレスレというのは本当の様だ。今日は本来であれば休暇のため大がかりな訓練は出来ないので対人格闘の訓練をしてやろうとしたのだが、一瞬で結果がついてしまった。
これでは訓練にならない。

「ナナよ」

合図をした瞬間に掴みかかってきた手を抑え込みながら捻るとすぐに隙が生まれたので、ちょっと足払いをかけたら体が宙に浮き地面にうつ伏せに叩きつける事が出来た。

「お前本当に訓練兵を卒業してここに入ったのか?袖の下でも包んでズルでもしねえと、こんな弱っちいのでは兵士になれねえはずだぞ」

全体重をかけ地面へと押さえ込む力を強くすれば、はらりと、纏められていた長い髪がほどけみるみるうちに地面へと水の様に流れていく。真っ白な髪が土にまみれて汚れていく光景が汚いと思うと同時に、もっと汚したい欲望に駆られた。

「兵長……痛いです…」

涙を浮かべた目が髪の隙間から睨み上げる様に覗く、その視線にぞくぞくする。痛みに怯えるナナを下に敷くこの状態から生まれた、狩りに成功したような達成感、征服感が心地よい。

「だらしねえな、これから毎日稽古つけてやろうか?」

背中を体重をかけて押せば、ナナの背中や尻に自然と密着する形になり細い体が俺の下に収まった。
普段、立体機動装置のベルトが這っている辺りをぐりぐりと肘で押すと、筋肉痛がさらに酷くなるのか体を震わせながら泣き始める。

「―――やだ痛い、やめてください」

ついに抵抗することを諦めたナナは、空いている手を俺の方へと伸ばしすがるように鍛練の中止を懇願するが、俺はその手を地面に縫い付けた。
このまま寝技に持ち込んでもいいが、俺の服が土で汚れてしまうのは気にくわないので体勢を変えたくない。だがこの状態は…

(―――これはまるでアレだな)

全身の血が臍下へと下りて溜まり、息が荒くなる。人生経験の少ないガキに悟られる事は無いと思うが、悟られぬようにナナの臀部と密着している下半身をゆっくりと離した。

(―――そうまるで後ろからコイツを犯しているような…)




(―――――朝か)

薄暗い中に月とは違う白い光が差しこんで目が覚めた。

汗と―――汗ではないねっとりとした物が下着を汚している。まさかこの年でこうなるとは、最近潔癖性がすぎて御無沙汰だったせいだろうか。どうも死亡率の高い調査兵団にいると特定の相手を作る気にもなれず、かといって不特定多数と交渉のある商売女を相手にする気になれなかった。
しかし年齢的にも落ち着いてきていたので、こんなスッキリとしていながら最低な気分の朝を迎えたのは久しぶりだった。

(しかしなんつう夢だよクソ、精通したてのガキみたいなふざけた内容だ)

あんな胸も尻も出ていないガキで抜いてしまうだなんて、そんなにたまっていたのだろうか。

最近のナナはあまり怯える様子が無くなり、腑抜けた締まりのない笑顔で俺に対応する。恐れらるより好意を懐かれる方が上司と部下の関係にはいいとは思うが、アイツは憧れの目で俺を見ているだけで『そういう目で』は俺を見ていないはずだ。
なのに昨日の対人格闘訓練でこんな事を考えてしまうのは、この前の壁外調査の時の泣きそうな顔を見て胸がざわついたせいだろう。

どうも虐めたくなるというか、攻めて追い詰めたくなるというか、あの獣に狙われた小動物的な所が嗜虐心を掻き立てる。
十代のガキにそんな一方的な感情を抱くなんて他人には絶対に知られたくない事実だ。

「……洗って捨てて、朝飯でも食うか」

朝の早いうちなら鉢合わせせずに飯を食えるだろう。面の皮は固い方だとは思うが、この後にナナと顔を合わせる気分にはなれなかった。


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