――――シガンシナ地区

この門を開けて旅立った時の私の未熟さと愚かさに絶望した。

命からがら辿り着いた時の喜びも、迎える好奇と失望の視線の雨に霧散した。

第99期訓練兵団の私の区出身で生きて帰ってきたのは私一人、ほんの数日前まで訓練兵として一緒に生活していたはずなのに。
エルヴィン班長達の本隊に合流した時、部隊は半分以下に減っていて。同期上位10名に入っていたはずの、調査兵団に私を誘ってくれた親友は巨人の胃のなかに消えた後だった。

私といえば、逃げ足だけは速く、囮をつとめていたがなんとか逃げ切れた。討伐補佐数5、でも一体も仕留める事ができなかった。

私は無力だ。

(―――姉さん、壁の外は予想どおり自然が美しかった。美しくて、残酷だった)


「ナナ、ウォール・マリアの門をくぐる前に隊列を離れなさい、休暇を与える。しばらくは家で休むといい」

馬上のエルヴィン班長は馬をひく私に顔を寄せ、ささやいた。

「……エルヴィン班長、私は大丈夫です。宿舎まで帰れます」

「家はこのシガンシナだろう?早く顔を見せてやるのも親孝行の一つだ」

(……親孝行)

死んだ父親は元々調査兵団のスポンサーだった。
そうだ、父親の夢なのだ。
遠い地平線の果て、夕日がとける空の向こうの未知の世界。

「班長、私は親孝行できているでしょうか?」

エルヴィン班長からは答えは返ってこなかった。




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