「兵長、私の『本心』ってなんなんでしょうか?」

普段なら、ただの部下に言われたのならば俺に聞くなと切り捨てていたはずだ。
だが、ナナ・ノームの不安げに揺れた薄いブルーグレイの瞳に見つめられると、キツい言葉をかける事がためらわれた。

「俺には、一昨日お前が言った『外に行きたい』は嘘には思えなかった。本心から出た言葉なんだろう」

調査兵団の夕飯は駐屯兵団に比べれば充実している。
軍の食事は基本的に質素でとにかく栄養を摂取できればいいという物が多いが、調査兵団はその資金源を支援者に集っている為か他より良い食事にありつけた。元々人数が少ないという点も質が向上する原因だ。
特に一般兵と違って上官クラスの食事は肉なども出る、もちろんリヴァイの食事も。

「少なくともナナ・ノームをよく知らない俺もそう思う。あの時のお前が嘘をついていたとは思えなかった」

だがその食事もナナの気晴らしにはならなかったようだ。食べながら憂鬱そうな顔をして唸っている。
元々裕福な家出身だ、普段から食べなれているのだろう。他の部下を招いた時とは違って食事内容に喜んだりはしなかった。

(食事で機嫌が良くなると思ったんだが)

人間というのは三大欲求に忠実な生き物だ。食が不発ならば後は2つ、まだ年若い女性であるナナに歓楽街に行けとも言えない。ならば後は休んでもらうしかない、腹一杯食わせて朝までぐっすり眠れば多少は元気になる。

「だがそう言ったお前の目は夢に溢れた目なんかじゃない、もっと何かを憎む様な、まるで復讐者の様な目だった」

(だからこそあの日、実力も見ないうちに気に入ったのかもしれん)

だがそう言われた本人には自覚は無いようで、しきりに頭を傾げながら唸っている。
その間も、ナナが悩みに気をとられているうちに料理を彼女の目の前へと寄せていく。第一この女は痩せすぎだ、もう少し肉を付けるべきだろう。

「お前の本心は『外に行きたい』理由が違うんだろう。それは俺にわからん、自分の事は自分で考えろ」

今考えてもわからないなら、実際外に出てから考えればいい。

「ナナ、お前の部屋で荷物を手伝った時、何を考えたのか思い出してみろ。あの時のお前の顔は『外に行きたい』と言っていた時と同じように強い瞳でシャキッとした顔をしていた」
「そんな目をしてましたか?」

やっと唸るのを止めてこちらを見たが、その瞳はまだ不安げなままだ。
その下から見上げる瞳がまるで『待て』をされている子犬に見えて、思わず頭を撫でてしまう。

「激励するか子供扱いするかどっちかにしてください、そんなに撫でられると子供に戻ったみたいで恥ずかしいです…」

そういえはハンジがそんな事を言っていた。
さっきも担ぎ上げられたまま兵舎を移動して恥ずかしかったんですよ、と口を膨らませて文句を言うが嫌だと言わないうちは大丈夫だろうと更に強く撫でてみる。

「ちょうどいい位置に頭があるからな仕方ない」
「ちょうどいいってそんな、あっ髪がほどけちゃったじゃないですか…」

瞳と同じ色素の薄い髪がほどけて肩に流れると、そこら辺にいそうな少女にしか見えなかった。
こんな子供が調査兵団に必要な人材だというのも今だ半信半疑だ。確かに実力は今日はっきりしたが、エルヴィンが『どうしても』入れたかった理由がまだわからなかった。

だがそれも、次の壁外調査でわかるだろう。

「いや、本当に無意識に手が出てな。エルヴィンもしているなら俺がしてもいいだろう」

新しい部下が入ったというか新しいペットを貰った様な感じだ。役に立つ賢い犬だといいんだが、さてどうなるか。

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