「戻れナナ!勝手な単独行動をとるな!!」
リヴァイ兵長の声が後方から聞こえるが振り返る暇なんてない、前方距離500左翼最南端、10m級奇行種一体、5m級通常種五体、担当部隊壊滅、分隊長不明…見える限りはそんな所か、まずは壊滅した部隊と巨人の距離を離さなくては。
馬を全速力で走らせつつ載せている荷物にアンカーを打ち付け、乗馬したままガスを下方へ吹かした。一時的に私の体が宙に浮かび上がったのを確認しガスを最大限に吹かす。
(まずは奇行種!!)
予測不可能な行動をおこす奇行種は一番危険だ、今も人がかたまっている場所ではなくたった一人の兵をつけ狙い、縦横無尽に走り部隊を乱し続けている。
奇行種にある程度接近した所で荷物のアンカーを外し奇行種の背中に打ち付ける、振り子のように奇行種の足元を滑り両足の腱を削ぎ落とす事に成功した。
ぐらりと奇行種の巨体が傾ぎ膝をつく、そのままアンカーを巻き取り首筋に張り付いて力一杯首を削いだ。まずは一体。
(……駄目だ、時間がかかりすぎている)
力が無いから首を削ぎ落とすのに時間を取られてしまい、奇行種が蒸発する頃には早くも二体に囲まれた。巨人の血で駄目になった刃を交換するだけで手一杯だ。
「大丈夫か!?」
片方の巨人が横倒しになり蒸発していく、消えていく巨体の影から現れたのは二人の兵士だった。
「ありがとう、この部隊の人?」
だが二人を確認する間も無く、残っていた巨人が襲いかかってきた。
「うわっ!!」
「下がって!!」
アンカーを巨人に打とうとも正面からでは勝ち目がない、ひとまず体勢を整えるべきだ。
助けに来てくれたうちの髪を結んだ青年から信号弾を奪い、左手にも自分の物を腰から抜いて巨人の両目めがけて打ち付けた。
「……すっげえ。そんな事よく考えるな」
巨人が怯んだ隙に二人が駆逐したが、先ほどの襲撃で髪の短い方の青年が怪我をしてしまったようだ。
戦える者より負傷兵の方が多い、まずい、このままでは消耗し寄ってくる巨人に囲まれて終わりだ。
「動ける者は負傷兵を中央へ連れていき増援を頼め、怪我人は早く馬に乗れ、馬が逃げた者は立体機動を!!」
大声で指示を出すと、急な巨人の襲撃で動けなくなっていた兵達が撤退を始めた。私達も早く脱出しないと。
「乗って!二人乗りでも本隊までなんとかなる」
「お前は!?」
私の馬に二人を乗せて、馬の尻を叩いた。
「増援が来るまで後ろの森に登ってるから、だから早く増援を!!」
まだ残っている兵がいるはずだ、彼らを森に誘導しないといけない。
(一人でも、一人でも多く助けなきゃ)
人がまばらになった平野を見渡せば、馬を無くしたらしい別の二人の兵士が巨人の目の前に取り残されていた。
「危ない!」
平野だからとか、正面からは駄目だとか、そんな事を考えている暇なんて無かった。アンカーを巨人の肩に打ち込み、身体全体に力を入れて捻りながら、二人を捕まえようとする巨人の手に突進した。巨人の肉が抉り落とされて、反動で巨人が倒れる。
だけど、襲ってきた巨人の後ろの死角から新たな巨人が現れ、倒れた巨人ごとワイヤーに引っ張られて身動きの取れない私に向けて腕を降り下ろしてきた。アンカーを外して逃れようとするが間に合わない。
(……駄目だ、叩きつけられる!!)
恐ろしくて両目を瞑る。だが体が宙を舞う感覚はあるのだが、いつまでたっても衝撃は来なかった。
(なんで?……助かったの?)
おそるおそる目を開けると、眼下に広がっているのはしゅうしゅうと音をたてて朽ちていく何体もの巨人の亡骸と助かったらしい二人の兵士だけ。
でも私のおなかに何かが巻きついている、なんだか身に覚えのあるような温かさと固さの何かが。これはもしかして…
「一人でまともに倒せないくせして威勢だけは立派なガキだなぁ、ナナ」
「リヴァイ兵長?」
私を抱えた兵長が物凄い怒りの形相で私をのぞき込んでいた。
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