何度かの地獄の様な訓練の後、次の壁外調査の日程が決まった。

事前の会議で索敵陣形の配置等をエルヴィン団長がじっくり決める、黒板に描かれている陣形は調査兵団のエンブレムと同じ翼の形をしていた。
私がいない一年の間に調査兵団の壁外調査も様変わりしていて、いかに巨人と戦わないかを目的に作られた陣形は未発達ながらも効果を発し始めていた。昔と違って生存率が上がっている。

だが死傷者は出る。ベテランを中心に今回の陣形が作られていき大体の配置も決まった。

「やっぱりリヴァイ兵長の班か」

リヴァイ兵長の班は中央寄りの配置で、右翼にも左翼にもすぐ対応できるように遊撃用の部隊として配置されるようだ。
何かがおきれば団長の判断ですぐ駆け付ける、兵長の実力と機動力あればこその部隊だ。そこに私が入って上手く出来るか不安で、椅子に座っている足が机の下で人知れず震えた。

「難しい顔してるね。勝手が違って大変だと思うけど、頼りになる強い兵長さんがいるから気楽にいけばいいよ」

会議が休憩にはいると、ひとつ前の机にいたハンジさんが心配げに振り向いた。明るい口調でハンジさんは言うけれど、それは彼女が一年前のウォール・マリア放棄以前から調査兵団の実力者だからなんだろう。

「別に、もう二回目ですから心配しなくても大丈夫ですよ、恐くなんかないです」

無理矢理笑顔を作って話を切り上げようとすると、ハンジさんの両手がが私の顔を包む。

(自分だって隊長で大変だろうに、こうやって私を安心させようとしてくれるハンジさんは凄いな……)

そう思っていたのだが、ハンジさんの手は私の顎をつかみ左横へと無理矢理まわされた。

(え!?)

「わかった!じゃあこっちで悩んでるんだ。ナナは『初恋のあの人』と一緒な班になれなくて残念だったね!」

顎を無理矢理向けられたその先にいたのは、一年前の壁外調査前に告白した『例の人』 目があってしまった。
相手は私に気づくと、申し訳なさそうな顔をして微笑んでくれた。
恥ずかしい、いたたまれない、でもやっぱりイケメンだ。私の顔がどんどん熱くなる。

「キャーーーーッ!!」
「うるせえ!!」

恥ずかしくて声をあげると、飲み物を取りに席を外していたリヴァイ兵長に怒鳴られた。もしかして今のを見られてしまったのだろうか。

調査兵団に帰ってきてからできるだけ顔を合わせないようにしてたのに!ハンジさんが凄いとか優しいとか一瞬思ってしまったけど全部撤回する。
ハンジさんは悪魔だ。

とにかく赤くなったり青くなったりしている顔を誰にも見られたくなくて机に突っ伏した。

「おいハンジ、コイツ動かなくなったぞ。もうすぐ休憩が終わるから使えるように戻せ」

もう穴に入って誰もいない所で頭を冷やしたい、過去を忘れてしまいたい。
なのにハンジさんはまだまだ私を弄って遊ぶつもりみたいで、また私の顔をつかんで机から引き上げた。

「そろそろ現実と向き合わなきゃナナちゃん、君が一年前の壁外調査出発前に結婚を前提に交際を申し込んだ相手は君とは永遠に結婚できないって事にさ」

そう、ハンジさんが言うとおりだ。
だけど恥ずかしいし、あの時の自分の馬鹿さに泣きたくなるしでそんな事できそうにない。

「結婚を前提に?出発前に?ナナお前頭わいてんのか?」
「だって…だって、訓練兵の頃から好きだったんですよぅ……仕方ないじゃないですか」

兵長にガキがマセやがってとあきれられ、小突かれた。
心なし兵長の無表情な顔が不機嫌になったように見える。

「お前俺の事は知らなかった癖にそんな事はしていたのか、で相手は誰だ?」
「リヴァイ気になるんだ、へぇ〜」

にやにやと笑いながらハンジさんは私から離れ兵長の横に移動した。弄り対象が私から兵長に移ったみたいでよかった。
でもハンジさんが楽しそうに兵長の顔をのぞきこむと、兵長からの不機嫌な空気がますます増した、と同時にハンジさんの笑顔もますます輝く。
無理だけれど、もう次の会議を欠席してもいいからこの場を抜け出したい。

「大事な壁外調査前にまた色恋沙汰でこんな状態になられても困るからな」

やめて、兵長まで私の過去の失態をほじくり返さないでほしい。
もう勢いであんな事は絶対にしないから、お願いだから話を切り上げてください…

「もう『また』は無いよ。ナナバは女性なんだからナナとは結婚できるわけないだろう」

ハンジさんにトドメを刺された私は、会議が再開するまでまた机の上に突っ伏した。
そうですよ、私は性別も確認せず告白して玉砕した馬鹿ですよ。
もう消えてしまいたい。

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