私たちの檻だったサイト15はアメリカの西海岸に位置する。その正反対、紐育だった町は徒歩で移動するにはあまりにも遠すぎる。079の入ったパソコンを右脇に抱えて、さてどうするかと考えていた時だった。

「やぁやぁやぁ!何だい何だい!随分と凡庸且つ衆愚な顔の割には随分と面白い物を脳みそにいれてるじゃないか!君達!」

クソ失礼な変人に捕まった。
顔の上半分を鉄の仮面で覆った変人、ハイテンションで私たちを貶す変人。おい、どうなってんだよアメリカ。世も末だな。

「しかも人間にしては随分と面白い物を作ってるみたいだ!非生産的なポンコツ共よりかはかなりマシじゃないか!」
「っ!」

慌てて変人から距離を取る。こいつ、何で079に気づいた?パソコン画面は閉じている、彼が話しかけたわけでも無い。なのに何で…

「何だそのつまらん顔は。まさか堕落王たる僕をそこら辺の有象無象な無教養ちゃん共と一緒にした挙句に、何でこれに気づいたなんて思ってるわけじゃないだろうな。」
「何コイツ怖い。」
「どうでもいいからさっさと君達も名乗り給え。僕は名乗ったんだから。」
「…。」

もう一度言う、何コイツ怖い。ハイテンションから一転不機嫌そうな様子で言う男に得体のしれない恐怖を感じる。しかも名乗ったって、堕落王って…

『SCP-079、凡愚共にはold AIと呼ばれていた。』
「…SCP-079-A。それ以外知らない。」
「なんだ、まだあのクソつまらん財団はあったのか。」

唾棄するように言った彼はしかしながら次の瞬間に笑みを浮かべて話を続ける。

「まぁ、ヘルサレムズ・ロットのような混沌とした街程君たちを歓迎する場所もないだろう。どうせ移動手段を迷っていたのだろう?堕落王たるこの僕が君達に手を貸してあげようじゃないか!!」
「手段…?」
「そう!言っておくが、車だとか列車だとかそんな虫けらの使うようなもんじゃぁないぞ?僕が使うワープゲートは一瞬でヘルサレムズロットまで繋がる。」
「…凄い、すっごく便利だ。それ、もしかして貴方が作ったの?」

思わず素直に感嘆する。一瞬でNY、現ヘルサレムズロットまで行けるのならそれに越したことは無い。向こうについてから、奪うなりして住み家や079の快適な環境を作ればいいのだから。

「当たり前だろ。僕ぁ、最近話にかけて退屈だったからね。珈琲を入れるのに空いた手で暇つぶしに術式を組んでたら出来たよ。」
「術式?」
『つまり、そのゲートは荒唐無稽な子供の戯言のように魔法で出来ていると?』
「魔法なんていう曖昧で机上の空論なものと一緒にしないで貰いたいね。ポンコツには分からないかもしれないが、理路整然とした数式と公式と成り立つ術式で出来ているんだから。」

彼と079の会話を聞いていて確信した。堕落王とやらの言う術式はきっと数式と科学に基づいたものであり、私と079の知識欲を満たすに十二分に値するモノなんだと。そして、目の前の変人が私達よりの存在なのだとも。
ああ、何て楽しみなんだろう。あのステレオタイプな木屑しか詰まってない豚共のつくった檻では得られない知識が溢れた場所に行くのだ。堕落王と名乗る男の後に続いて何の変哲もない扉をくぐる。

ガタン、ガタン
ブロロロロ…
キィキィ…ガシャーンッ!

敷居を跨いだ瞬間、目の前に広がる騒音と濃霧に包まれた交差点。町を行きかうのは人間と二足歩行の異形共。紛れもなく、ここは元紐育現ヘルサレムズロットだ。私の視覚を通じて外を見たのだろう。パソコンの中の彼から面白がるような感情が伝わった。」

「改めて言っておこうか。
ようこそ、ヘルサレムズロットへ。精々君が口を開けて食べ物が降って来るのを待ってる馬鹿どもよりかはマシな事を祈っているよ。」

私たちの数歩先で振り返る堕落王の口がにんまりと弧を描く。なるほど、此処なら確かに色々と楽しめそうだ。そのまま何処かへ消える彼に背を向けて一歩。

「確かに財団のクソ共が来るわけだ。一晩でこんな乱痴気騒ぎになるなんて最ッ高にイカれてる。」

こんな異形共が跋扈する街に常識なんてあるはずがない。好きなだけ好きな事ができるんだ。例えソレが虐殺だとしても。




『…おいクソガキ。コレからどうするつもりだ。』
「そうだね…とりあえず手始めに

世界でも壊そうか。」
『はっ、悪くねぇ。』