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骨まで溶かす恋文


人間って将来どうなるのか予想つかないもんだなと最近思う。
というのも、私の彼氏様との出会いなんかは、最悪を通り越して一生会いたくもないわと思わせるようなものだったからだ。一体何がどうしてこうなったのか…いや、愛してますし大好きなのよ?

「ただ、正直あのテンションについていくのは時々辛い。」
「惚気かよ。怠い、めんどくさい、さっさと用件を言え。」

まさかの罵倒のオンパレードに驚きを隠せません。田噛さん、貴方そんなに気が短い方でしたっけ?

「お前がアイツとどう乳繰り合ってようが全く興味がない、任務で俺に迷惑をかけない限りな。」
「うわぁ…なんというドライモンスター。某六つ子ニートの末っ子もビックリのドライっぷりだよ。」
「それよりさっさと用件を言え。」
「はいはい、了解です。前に話したやつですけどアレの動画が――…」

獄卒の館なう。某呟き系のSNS風に言うならこの一言につきるだろう。
私の彼氏殿の同僚、ついでに言うと相棒らしい田噛さんとは何だかんだで話す仲ではある。でも初対面の時の印象は理不尽に理不尽を重ねたダウナー、もはや悪口でしかない。
仲良くなった理由とかは長くなるので以下省略。とにかく私は、前に珍しくめんどくさがりの彼から聞かれた事を教えてあげていたのだが、

「…あ。」
「え?…ほわっつ!?」

突然目の前のダウナーが瞠目したかと思うと同時に浮遊感が私を襲った。そのまま背中とお腹が何かに支えられるような感覚と共に遠ざかっていく田噛さん。あ、違う。これ遠ざかってんの私か。

「わけがわからないよ!?」

魔法少女量産厨の白い獣じゃないが、思わず叫んでしまう。私を抱えている犯人こと我が彼氏はさっきから一言も喋っていないのが余計に怖い。待って、待って?本当に一体どういうことなの?これぞ混乱の極み。

「ひ、平腹さーん…?」
「ちょっと黙ってろ。」
「アッハイ。」

え、何か怒ってないですか?かつてない彼の対応に思わず黙ってしまう。
そのまま彼はやや乱暴に自室の扉を開けるとベッドの上へと私を放り投げた。

「ちょ、うわぁあぁ!?うぶっ!!」

一応言っておくが、今まで彼にこんな対応されたことなどない。何だかんだで自分が人間よりもはるかに怪力なんだと理解しているらしく、それこそ私に対して乱暴な事をすることは決して無かった。だからこそ、無言でベッドの上に乗り上げて来た彼に恐怖を抱く。

「ひ、平腹…。」
「…なぁ、田噛と何話してたの。」
「…え?」

田噛さん?
予想外の名前に思わず虚を突かれる。それをどう解釈したのか、眉間にしわをよせたまま彼が囲むように私の左右に手をつく。

「なぁ。」
「え、え?えっと、前に聞かれたギターの曲の話?」
「…それ、俺が伝えるんじゃ駄目なのかよ。」

視界を占めるは白い天井と少し陰った黄色。
私の頭の両横には大きな手。
まって、ホント待って。凄い何かこの体勢恥ずかしいんですが…。

「お、落ち着こう。ね?この体勢アレだから、一旦離れて落ち着…。」
「やだ。」
「即答か。」

出会い頭に「食わせろ!」と脅迫した上に迫力3割増しで追っかけて来た鬼、基平腹。
…何故私は彼と付き合ったんだろう。なんて言葉を口に出した瞬間、バッドエンドルートしか向かえないことは流石の私にも分かる。メリーバッドエンドもR-18G(グロテスク)エンドもお断りです。

「最初はそうしようかと思ったけど、約束してた時間になっても来ないから災藤さんに聞いたら平腹は任務だって言うし、それなら田噛さんの用事済ませたら部屋(ここ)で待ってようと思って。」
「あー、マジかぁ…。」

先ほどまでのとげとげしい雰囲気は何処へやら、平腹は眉をへにゃりと八の字にさせるとそのまま私の上に倒れ込んできた。うぐぅ…重いぃ…
「これは早期解決しにゃいと圧迫祭りエンドですにゃ。」姉上殿、結果予測だけじゃなくて回避方法も教えてよ。脳内の愛猫にいくら尋ねても解決策が出てくるわけがない。
そもそも何でこうなったの…。思わずため息を一つ吐く。それと同時にピクリと震える彼の体。

「…。」

…いや、まさかな。
思いついてしまった彼の不機嫌の理由を即座に否定する。だって…ねぇ?脳内が結構な比率でパッパラパーに愉快な感じで出来ている彼がそんな理由で不機嫌に…でもそれしか思いつかないし…。

「えっと…平腹?」
「…んー、何?」
「もしや…嫉妬…してたり?」
「……。」
「あ、いや、やっぱ私の勘違いで。」
「…そうだって言ったら、どーすんの?」
「」

数秒の思考停止後、ようやく理解した言葉に再び思考回路が停止しかける。
えまーじぇんしー、えまーじぇんしー。
自分で言っておいてなんだが、予想外のダメージに顔面がオーバーヒートしました。ガバリと効果音でも付きそうな勢いで体を起こし、そのまま彼は破壊力抜群言葉を並べていく。止めて向日葵のライフは既に0よ!

「俺が向日葵と付き合ってんのに、お前他の奴の話しばっかじゃん。それに…――。」

止めろ、頼む止めろください。私が悪かったから。
好意を素直に伝える人だとは思っていたが、まさかこんな風に嫉妬を直接伝えられるとは夢にも思わなかった。これが孔明の罠か…っ!幾ら脳内でお道化てみたところで冷静になんてなれるわけがない。私の彼氏の愛情表現ストレートすぎない?心臓が持つか不安なんですけど。冷静さを急募しま…

「俺ばっかりが向日葵の事を好きみたいじゃん。」
「…は?」

一瞬で冷静になった。まるで氷水を頭からかけられたような衝撃に襲われる。
何言ってんだコイツ?

「俺よりも斬島とか田噛とかと話す方が楽しそうだし、俺より――…。」

つまり、私の好意は目の前の彼には全く伝わっていなかったと?
沸々とこみ上げる怒りのわりに、脳みそは冷静だった。
ええ、冷静ですとも。目の前の朴念仁をぶん殴りそうになるくらいには。
ふと、とある詩人の言葉が脳裏に浮かぶ。

キスは贈る部位によってその意味を変える。

額なら友情、掌なら懇願。
腕や首ならば欲望。
でも、私が彼に贈るべきなのはそのどちらでもない。
幸運にも彼はまだ不満を口にしているせいで気づいていない。ここらでしっかりと理解させてやるのも彼女の役目というやつなのだろう。HAHAHA!!全くもって手のかかる彼氏様だ。

「だいたいさー、向日葵は――…。」

両手を伸ばし、彼の頬に添える。
ようやく気付いたようだが、もう遅いぞ。
それこそ永久に続きそうなその文句を呼吸ごと塞ぐ。
二酸化炭素を共有して数秒。呆けた顔の彼にとどめとばかりに告白してやる。

「…一応聞いとくけど、私が愛する人以外にホイホイキスするような奴に見える?」

愛しの彼氏様は真っ赤な顔のまま顔を左右に振る。

「じゃあ、少しは私の愛も感じてくださいよ彼氏殿。」

少しだけ怒りを込めて、濡れた唇に噛みついてやった。
どうやら十二分に理解したみたいだし、特別にこれで許してあげましょう。


title by 怠惰

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