5000hit企画用小説 | ナノ

げに恐ろしきは人の性


※未成年が飲酒するシーンがありますが、当サイトは未成年の飲酒を推薦しているわけではございません。ご了承ください。お酒は20歳になってから!







金曜の夜。巷では翌日から休日ということもあり花の金曜日などと呼ばれる夜、向日葵の家には人間と獄卒、猫、鏡の怪異と種族すら違う者たちが勢揃いしていた。
居間のテーブルにはお酒の瓶と缶、つまみ等が広げられている。しかしその場にいた全員の目線は液晶テレビの画面に向けられていた。


テレビの横に立った向日葵がうまい棒をマイクの様に握りながらアナウンスする

「あー、あーマイクテスマイクテス。
えー、それでは
第一回『俺が遅い!?俺がslowly!!?冗談じゃねぇ!!!マリオ○ートグランプリ』を開始しまーす↑。」

そういい終わると同時にうまい棒を齧った。軽快な音と共に短くなったマイクからはポロポロと粉が落ちていく。ちなみに茄子田楽味だ。

「「いえー!!」」

酒が入ったせいか、いつもよりも若干テンションの上がっている獄卒数名が合いの手を入れる。既に何人かは出来上がっているようだ。

「ねぇ境、もしかしてあの子お酒飲んじゃった?」
【いや、飲んでない筈…多分周りのテンションに巻き込まれてるだけだと思う】

こっそりと化け猫と境と呼ばれた鏡の怪異が話しをするが、テンションが上りきっている本人たちには聞こえていない。

「ルール説明でーす!えー機械系が苦手らしい谷裂さんと斬島さん達は、ハンデとして一人相棒をつけたチームで戦います!でもほかの奴らはソロでプレイをしてもらいます!
ち↑な→み→に↑!今回の!最下位の方には某海外で精神病院マジ怖いと有名なホラゲ―をプレイしていただきますぅ↑」

機械操作が苦手と言われた二人はハンデという言葉が理解できてない様だが、それが他の獄卒よりも能力が劣ってるがゆえにつけられる特別ルールだと理解した途端に反論の声をあげようとする。

「こいつら相手にハンデなど…!!」
「俺も別に要らな…。」
「シャラップ!!どうせ最下位になる奴が決まっているゲームなんて面白くもなんともないんですよ。聞きましたよ?デバイスもとい端末壊しちゃったんですよね?我が家のWiiは壊されちゃ困るんで、お二人は補助要員が義務となります。」
「クッ…」
「…分かった。」

正当すぎる論に反論したくとも反論できず、二人は大人しく引き下がるしかなかった。

「ということで、お二人にはまずこのクジを引いて相棒を決めていただきます!あ、田噛さん寝ないで、寝たら強制罰ゲームです。ついでに言うと内容はホラゲ―ではなく我が家に何故か届いた眠眠○破30本セット一気飲みです」
「今起きた。」

どうやら眠眠○破が何か知っているらしい。それを聞いた瞬間、ほぼ閉じられていた目がすぐにいつもの半目にまで開いた。

【何でそんなものが…】
「あの子が夜に勉強してるって前にはにゃしたら、妹さんにって…。」
【俗世に染まりすぎでしょ…環さんのご友人。】

酔っ払いに巻き込まれない様に少し離れた位置で酒を飲む環と境。そこに近づいてきたのは佐疫だった。

「…あの、環さん。これジュースじゃなくて、お酒だと思うんだけど…。多分チューハイを誰かが向日葵ちゃんののコップに注いじゃったみたいなんだ。」
「…あちゃー。」
【何てこったい\(^o^)/】

スナック菓子をつまんでいた手を三人して額に当てる。
やっちまった。獄卒と化け猫、鏡の怪異が口に出さずとも考えることが一致した世にも珍しい瞬間だった。
しかし当の本人はそんなこと知らないとばかりにハイテンションのままルールを説明し始める。

「ハァイ!では対戦相手を発表しまーす。
第一回戦は平腹さん、木舌さん、佐疫さん、そして私と斬島さんペアでーす。
第二回戦は田噛さん、境ちゃん、姉上殿と谷裂さんペア、それからCPに戦ってもらいまーす。各対戦終了後に両試合の最下位同士で決戦をして、最下位には罰ゲームをこのまましてもらいます!はい、異論あるー?でも反対意見は認めませーん!」

じゃあ何故聞いたの。
佐疫はそう思ったが、何も言わない方がいいと只にこやかな微笑みを浮かべていた。
隣にいた境も何か言いたそうだったが、ぐっとこらえていた。

そんなわけで始まってしまったマリ○カートグランプリ。
第一回戦に選ばれた獄卒達は殆どが笑顔を浮かべていた。罰ゲームの説明はちょっとよく分からなかったが、大して怖くないだろう。なにしろ、自分たちが仕事で捕縛したりしてる相手でさえ人間にとってはホラーなのだから。
第一、これはあくまでゲームなのだから。

そう思っていたメンバーはゲーム開始と共に考えを一新させられた。

「斬島さん!そこで!ハンドルを左に!そう!ソコダァアア!」
「任せろ。」
「木舌ァ!邪魔だぁああ!」
「平腹!ここで亀はずるいよ!って佐疫!?」
「ごめん、木舌。でも…斬島達の邪魔はさせない…っ!」
「お前、斬島のペアじゃないよね!?」

最終ラップ、友情と裏切り、そして暴走と冷静な対処が繰り広げられる白熱した戦いもこの一周で終わりだ。まさかの佐疫のフォローにより、現在はほろ酔い状態の向日葵と斬島ペアがぶっちぎりでトップを走っている。2位の佐疫は親友達を追い越さない様に、しかし自分を追い越そうとする木舌と平腹には容赦なく甲羅や雷を浴びせる。
流石佐疫、えげつない…。最下位だけは回避したいとばかりに二人が熾烈な争いを続ける中、向日葵はじっと箸でつまんだ山菜の天婦羅を見つめる。

「…向日葵、どうかしたのか?」

急に黙った向日葵に不思議そうな表情を浮かべる斬島。名を呼ばれた彼女はそちらを向くと、

「…斬島さん、斬島さん。」

天婦羅の衣の部分だけを剥ぐと中のタラの芽を掲げる様に見せ、心なしか誇らしげな表情を浮かべながら言った。

「何だと思う?これね、




ミキプルーンの苗木。」

「「「ブフッ。」」」
「そうか、かなり小さいんだな。」

斬島以外の3人全員がコースアウトした挙句、悶絶している間に、向日葵達のペアは口いっぱいに天婦羅を頬張りながら華々しい勝利を飾っていた。ちなみに、最下位はギリギリの所で木舌に競り負けてしまった平腹である。

続く第二回戦。
一回戦での白熱具合を見たせいか、3人と1匹は気合いに満ちている。そんな中、谷裂だけが不安を抱いていた。

「俺が機械操作があまり得手ではないことは認める。しかし何故…何故相方が幾ら肋角さんの知り合いとはいえ、猫なんだ!!」

もっともな意見である。そもそも猫の手ではハンドルすらまともに握れないだろうに、一体どうしてメンバーに入れたのか。

「谷裂さーん、見た目で判断しちゃいけませんよ?姉上殿は我が家で一番マリ○カートの操作がうまいんですから。」
【私たち、環さんには未だ勝てたことない。(´・ω・`)】
「心配しにゃくても大丈夫よ。若造に車の操作方法一つ教えられにゃいような駄目にゃ猫じゃにゃいんだから。」
「いや、まずどうやって操作をしてるんだ、環さん。」

遂には頭を抱えてしまった谷裂を横目に田噛と境はそれぞれキャラクターを決める。結局パートナーチェンジは認めてもらえず、なし崩しに雲に乗ったキャラクターが信号機を掲げる瞬間まで来てしまった。最悪でも、この初戦でコツをつかめば最下位決定戦の時に平腹に勝つ事はできるだろう。
しかし谷裂が決死の思いで抱いた覚悟は無駄な物だった。
序盤はやはり機械操作に分のある田噛、境に大幅な差をつけられ、挙句の果てにはCPにまで抜かされる谷裂。しかしレースはそのままでは終わらなかった。

「そこよ!そこの右端によりにゃさい!」
「しかしそれでは路上からはみ出て…」
「それでいいのよ!いいから言う通りにしにゃさい!」
「あ、ああ…。」

谷裂がなんとか1週目を終えた途端に上半身を起こし、無茶苦茶な指示を飛ばしまくる環。最初は反論していたが、遂にはその迫力に負けよく分かっていないまま従おうとする谷裂。なんともカオスな光景に木舌が若干顔を引き攣らせる。

「ねぇ、平腹。谷裂自分が今どこ走ってるか分かってると思う…?」
「お?んー…多分分かってねーと思うぜー。谷裂ショートカットとかしないくそ真面目だもん。今走ってる道、俺も知らない奴だし。」
「そりゃまた…随分とやりこんでるんだねぇ…。」

環の迫力に野次を飛ばそうとも思えない二人は飲み食いしながら画面を見つめる。この家にはネジが吹っ飛んでしまった奴らしかいないのだろうか。今の所まともな行動をしているのが仕事の邪魔をしてきた鏡の怪異だけっていうのはかなりおかしいと思う。
遠い目をしつつあった木舌。

「チッ…行かせるかよ。」

田噛の目つきが2割増し鋭くなる。ハンドルを握っているためコメントが打てない境はそれに同意するように力強くうなづいた。ここは…通さない!
そんな二人を嘲笑うかのように環が宣戦布告をする。

「若造が…せめて世界チャンプぐらいのタイムを出してから出にゃおしてきにゃさい…。」

放送ギリギリの悪い顔をしながら煽る猫。しかし実際にCPを早々に抜いた谷裂ペアは、トップ二人との差を確実に縮めていた。そんな中ソファーにもたれながら戦いを見ていた佐疫に斬島と向日葵が近づく。

「あれ?斬島も向日葵ちゃんもどうしたの?」
「佐疫さん、佐疫さん聞いてくださいよ。あと知恵も貸してください。」
「三人寄れば文殊の知恵だからな。」
「…?よく分からないけど、僕でいいなら力になるよ。」

親友達たっての願いに穏やかな笑みを浮かべる。佐疫は、例え片方が重度の天然でもう片方が若干酔っぱらっていたとしても、力になれるのなら助力は惜しまないつもりだった。

「あのですね、
中学の頃、大村君って人がいて、皆から苗字音読みでダイソンって呼ばれてて
それが元で梅村君はバイソン 若村君はジャクソン
下村君とかはアンダーソンと皆かっこいいあだ名がついたのに
津村君だけあだ名がバスロマンだったんですよ。
バスロマンって販売元ツムラじゃなくアース製薬なのに…。
あれって今考えるとイジメなのかな?って思って…。」
「もしつけるなら、どんなあだ名にすべきだったかを今話していたんだが…佐疫、大丈夫か?体調が悪いのか?」

腹筋の辺りを抑え、声も出せずにただ震える佐疫に斬島が心配そうに声をかける。よくよく見ると佐疫だけでなく平腹や境、木舌達もうずくまってしまっている。無事なのは画面に集中しているらしい谷裂くらいだ。

「くだらん、たかが名前一つに左右されるほど人間の人生は柔に出来ていないだろう。」
「それはそうなんだけど、とりあえず集団食中毒にかかってないよね?これ。」

そのまま谷裂が動かなくなった境と田噛のキャラクターを抜き去り、一位となった。最下位は二人が気合いで後を追うようにゴールしたため、CPである。

「あちゃー、NPCが4位かぁ。最下位決定戦どうする?」
「もう平腹でいいんじゃねぇの。」
「俺!?」
「じゃあ平腹さん、これやろうか。」
「あれ?Wiiじゃねぇの?」
「パソコンのゲームなんだ。」

向日葵がサイドボードから取り出したのは一台のノートパソコン。
それと同時に境が天井からスライドを下し、テレビとは反対側の壁にをスクリーンで覆い隠す。

「先に謝っておくわ…辛いかもしれないけれど、恨まにゃいで頂戴ね。」

沈痛な面持ちで環が警告する。だが、彼らとて獄卒だ。グロテスクなものにも人間よりも耐性はあるし、怪異や亡霊と呼ばれるものとて星の数ほど見て来た。それ故にどうせ大したことはないだろう、そう高をくくっていたことも仕方ないと言える。
彼らは忘れていたのだ、怪異を生み出すのも亡霊となるのも結局は人が要因であり、人間の発想力と趣味嗜好には際限がないことを。
平腹の前に置かれたパソコンの画面には◎utlast〜Whistlebl○wer〜と描かれたロゴが映っていた。




罰ゲームをなんとかクリアし、館に帰った獄卒達を待っていたのは一件の仕事だった。

「では任務内容を説明する。今回は少々特殊な状況のため、お前たち全員に行ってもらうぞ。」
「「「「「「はい。」」」」」」
「お前たちには精神病院に行ってもらう。怨霊になりかけた亡者がそこで大量に発生しているらしい。報告によれば気が触れてしまってるが生者も数名いるそうだ。」
「精神病院…ですか?」
「しかも生者…。」
「そうだ。中に入ると外部との通信が取れなくなるらしくてな、念には念を入れ全員で……どうしたお前たち、顔色が悪いが…。」
「あの、ろ、肋角さん…。」

佐疫が血の気が引いた顔でおずおずと挙手をする。

「どうした。」
「もしかして、その…生者は海外の礼服を着てたり…?」
「佐疫…いやいや、いくらなんでもアレはゲームの中の出来事…」

まさか当たるわけがない。いや、むしろ当たらないでくれ。考えていることが如実に表れそうな表情のまま、佐疫が尋ねる。それを聞いて青い顔のまま木舌が一笑しようとするが、

「良く知ってるな。」
「「「「!?!?」」」」」

その場の空気が間違いなく一瞬で凍った。まさかあのゲームは史実だったのか!?
罰ゲームと称したホラーゲームは獄卒達に新たな恐怖を与えていた。キャラクターの死に関するものならば、彼らとてこれほど怯えることはなかっただろう。しかしまさか

「…肋角さん、もう一個聞いてもいいですか?」
「どうしたんだ平腹。」

獄卒達の中で珍しくも平腹が真っ先に覚悟を決めた。
許されざる者には罰を、それは例え自分の貞操を賭けた戦いになろうとも変わらない筈だし。いや、すげー嫌だけど。最悪皆がいればきっと何とかなるだろうし。

「もしかしてその精神病院って人体実験してたりしますか?」




館からこの世の終わりの様な表情を浮かべた獄卒達が出ていく。管理室の窓からその様子を眺めて肋角は首を傾げた。

どうにも部下たちの様子がおかしい。

昨晩、知り合いの元から疲れ切った顔で帰って来たのはまぁ、良しとしよう。しかし先ほどの任務についての説明をした瞬間に全員が顔を引き攣らせ、まるで最初から知っているかのような質問ばかりをしてくる。挙句の果てには皆一様に絶望したかのような表情だ。あの田噛ですら、瞠目していた。一体何があったのだろうか。
確かに今回の任務は怨霊となりかけた亡者の大量発生という特殊なケースであった。
だが、そこではなく何故生者の女性の服装を尋ねて来たのか、それが任務と一体どう関係してくるというのか。

思考をめぐらせながら煙管を口元から離し、煙を室内へと漂わせる。まぁ、アイツらなら大丈夫だろう。結局、帰還した彼らが行きとは真逆に爽快な表情を浮かべながら報告をしている姿に再び肋角は首を傾げた。

…何だったんだ?

そうは思いつつも、無事に任務をこなした部下たちに労いの言葉をかけていく。

後日友人に事の顛末を聞いた肋角が、元凶である向日葵に拳骨を落とした事を獄卒達は知らない。

「結局一番怖いのって人間だよね。」
【それな(σ゚∀゚)σ】



出典:2ch笑えるコピペ


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