夢現
O
「……答えは、60分後、ですかね……?」
『はい、正解ですよ』
「ふふ、向日葵ちゃん頑張ったわね〜」
どうぞ、と犯埼さんは小さな包みを向日葵さんに手渡す。
嬉しそうに受け取った向日葵さんは、彼に一言断ってから包みを開けた。
中に入っていたのは、髪飾りだった。
大きな薄紫色の石が特徴的な比較的シンプルなものだ。
彼が選んだにしては珍しいチョイスな気がする。
「わぁ、可愛い……!」
「喜んでもらえたなら嬉しいわ♪」
『ふふ、良かったですねぇ』
にこにこと嬉しそうな彼女は大切そうにその髪飾りを付けると、彼に礼を述べる。
そんなほんわかした空気の中、また新たな人物が顔を出した。
「あれ、名前に向日葵ちゃんに犯埼さんじゃないか。何してるの?」
『ちょっとしたお勉強ですよ、佐疫くん。平腹くんが田噛くんに捕まるまでの時間を予測していたんです』
「あー……また平腹が田噛のお菓子か何かを食べちゃったんだね……」
「佐疫さんは何か用があったんですか?」
「ううん、寧ろ用を終わらせて来たかな。抹本に昼食を渡してきたんだ」
そういえば今日は抹本くんだけが向こうに呼ばれていましたっけ。
今度は僕の番ですかねぇ、と次の仕事のことを考えていれば、佐疫くんが、あ、と声を上げる。
「そういえば、水銀さんから後でこっちに来るって言われたんだ」
「あら〜ん?あの看護婦長がこっちに顔を出すなんて珍しいこともあるのねぇ」
『あぁ、今日でしたか』
ぽん、と手を叩いてそう言うと、三人の目が一斉に僕を見る。
その目はありありと、どういう事か説明してくれ、と物語っていた。
『報告に来るんですよ』
「報告?」
「それって何の……」
すると、突然辺りが暗闇に包まれる。
これは彼女が現れた証拠だ。そう思うと同時に僕の肩に誰かの手が置かれた感触。
「ごきげんよう皆さん」
パッと明るくなった時には水銀さんが僕に寄り添うように立っていた。三人は突然のことに脳が追いついていないのか、目を丸くしたまま僕と水銀さんを見つめる。
しかし、水銀さんはそれを気にもせず僕の手を取るとそのまま立ち上がらせた。
「さ、報告に行きましょうか、毒蜘蛛さん」
『そろそろその【毒蜘蛛さん】と呼ぶのはやめませんか?』
「あら、それは貴方もではなくて?」
「え、えっと……。名前、俺ちょっとよく分かんないんだけど……」
米神に手を当てた佐疫から困惑した目を向けられる。
確かにこの事は誰にも言っていませんでしたっけ。
僕はそっと水銀さんを引き寄せるとその細い腰に手を回した。
『ふふ、僕の可愛い彼女です』
「あら、貴方が私の可愛い彼ですわ」
『ちなみに、第一子も居るんですよ。僕ももうお父さんなんですよねぇ』
「大人しそうな顔をしていらっしゃるのに、夜はとっても激しいんですもの。あれだけ何度もされれば子供だって出来ますわ」
だって、僕も男というものですからねぇ。
好いた方の淫らな姿を見れば獣になるのは道理というものでしょう。
大絶叫が響き渡る中、僕はそっと彼女に一つキスをした。