本当に怖いのは?O


「鏡っていうのは言わば本来は模倣品なんだと思うんですよ。原作(オリジナル)に形状やその在り方を極限まで近づけることはできるでしょう。でも原作を超えることは結局どうやっても不可能なんです。超えてしまった時点で模倣品は原作とは別の要素を含んだ個体となってしまう。自論に則っていうなら唯の鏡ではなく、模倣する怪異である境ちゃんは最早私の模倣品ではなく全くの別個体。自我を持ち、私の皮を被った悪戯好きな怪異。」
「…つまり?」
「境ちゃんの悪戯に関して後悔はしているが、反省は全くしておりません。」

瞬間、私と向かい合うようにソファーに座る彼のマントが蠢く。その次の瞬間には、私の頭に強烈な衝撃が走っていた。

「アウチッ!!」
「ああ、駄目ですよ。
…本来なら怪異は人間とは関わりをあまり持つべきではありません。肋角上司のご友人である貴女のお姉様が居る事と、貴女が少々特殊な体質なので特例として見過ごしているのですから。それが問題を起こしてしまっていたら本末転倒でしょう。」
「おぅふ…仰る通りです…。」

優しくマントをたたき、その整ったパーツが綺麗に配置された顔を少しだけ困ったように歪める彼、もとい獄卒の厄雲さん。あるぇ…獄卒って顔面偏差値を基準に選んでない?世界を敵に回しそうな就職基準を想像してしまったが、正直今はそれどころではない。
どうしてこうなったんだろう、一体何がいけなかったのだろう。
ゲンドウポーズで思い返す。

「…まさか境ちゃんが本当にやるとは思わなかったんです。というか、流石に怪異でも直ぐにトラウマ植え付けられて退散してくれると思ってたんです。」
「あの、待ってください。仰ってる意味がよく分からないので一から話していただけませんか?」

首を少し傾ける彼に経緯を話すべく口を開いた時だった。

「…そうね、境が我が家ににゃ染み始めた頃には全ては始まっていたのよ。」
「姉上殿!」

いつの間にか私の隣に座る愛猫、彼女は物々しい口調のまま話を続ける。

「私が悪かったのよ、境にゃら大丈夫って…。」
「(何なのでしょうか、この茶番。)」
「違うんだ、姉上殿!アレは仕方ない、私達にはどうしようもなかったんだ。
だってそうでしょう?想像できるはずがないじゃない!
まさか

検索サーチの検索してはいけないワードを調べ始めるなんて」
「……あの、すいません。話が全くつかめていないのですが。」
「検索してはいけないワードというのは人間の業の深さを示す言葉の羅列です。数多の人々に一生もののトラウマと恐怖、そして多少の金銭トラブルをもたらす悪夢のようなワード。」
「いえ、そうではなくて。」
「向日葵を映していた時点で若干起こり得る可能性はあるにゃと思ってはいたのよ?でもまさか本当に調べ始めるとは思わにゃいじゃない。」
「…あの、ちなみにそのワードとかって例えば…。」
「「やったねたえちゃん、家族が増え…」」
「あ、結構です。分かりました。」

遠い目をする彼に少しだけ同情する。いや、本当にこれは予想外だったんだよ。まさか境ちゃんがブルーベリー色のツナギを着たいい男の姿で悪戯を始めるなんて思わなかったんだ。

「そろそろ猫の噂にもにゃっていたし、止めるべきかにゃとは思っていたのよ。ねぇ?」
「少しだけ愚策だったなと思う対策をしてしまった自覚もありますし。」
「…あの、何をされたんですか?」
「調べるなよ?絶対に調べるなよって念押ししてしまった…。」
「それ絶対フリですよね?」
「いや、冗談交じりに言ったつもりだったんです。」
「しかも、あの子ったらわざわざ見つからにゃい様に深夜にパソコンで検索してたらしいのよ。」
「確信犯じゃないですか。」

厄雲さんのジト目に流石に反省する。うちの子がどうもすいません。これは早々に回収して言い聞かせた方がよさそうだとソファーから立ち上がる。

「場所の目星はついているので回収しに行くんですけど、一緒に向かわれますか?」
「そうですね…報告書もありますし、ご一緒させていただきます。」

頭が痛いとでも言いそうな表情の厄雲さん。
いや、原因の原因は私達だけど、元々の原因は境ちゃんなわけで、私たちが原因ってわけじゃ…。原因がゲシュタルト崩壊しそうな弁明をしても返って来たのは思い溜息一つだった。

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