見知らぬ教室O


「…どこだ、ここは。」

いつの間にやら私は制服のまま軋む木の床の上に倒れていた。周りを見回すと積み上げられた木造の椅子と勉強机。前方の壁には古ぼけた黒板と教卓。どうやらここは学校らしい。
しかし私の通う高校は、去年改装されたばかりのコンクリートの建物だ。どの部屋も床はタイルに覆われていた筈。

「旧校舎…?」

いや、あの高校に旧校舎なんてものは無かった。
………。
つまり、誘拐か"そういう物"に巻き込まれたか。そんでもって誘拐は普通人質を拘束せずに放っておかない。
つまり、これは怪異に巻き込まれたでファイナルアンサーな訳なのだろう。

「言霊的なのの力か…そもアレはフラグだったのか…。」

思い浮かぶのは朝、姉上殿との会話だった。



『ねぇ向日葵。私は今晩友人に会ってくるけど、くれぐれも変にゃのに気をつけにゃさいよ?』

いや、今時小学生でもそんなにホイホイついていくことなんてないぞ。

『やぁね、人間のことにゃんかじゃないわよ。私みたいにゃのに付いて行くにゃと言ってるのよ。』

姉上殿みたいなのがそこかしこにいるわけないと思うが。

『あら、あにゃたが気づいていにゃいだけよ?私たち怪異は場所に縛られているわけじゃにゃいのよ、そういう状況があればそこに生じる。そういうものにゃのよ。』

状況によっては出張デリバリーサービスとはまた何とも難儀なことで。

『…そういう表現をするのはあにゃたぐらいよ、向日葵。』

お褒めの言葉として受け取っておくよ、環(たまき)姉さん。


正直に言おう。私はあの時、正直姉上殿の忠告をあまり深刻に受け止めていなかった。そんなホイホイ姉上殿のような怪異がいるわけがないと思っていたのだ。
その結果が、まさかの怪異に巻き込まれたらしきこの状況だよ。
思わず頭を抱えるが、現実は非常にも私に家に返すという選択肢を選ばせない。
仕方なく立ち上がろうとした時、私の足元に私のカバンが落ちていることに気づいた。淡い期待を抱いて中身を確認するも、役に立ちそうなのは精々先輩からもらったスタンガン程度だ。電池式なのであまり容易には使えないだろう。

…ハァ
溜息を付きながら立ち上がる。取り合えず部屋を出て何かしらの現状打破に努めるとしよう。
木造の古いドアを軋んだ音をたてながら開く。廊下自体に何かがあるというわけでもなく、いたって普通の木造の廊下ではあった。ちなみに、運よくカバンに入っていたスマホは既に圏外であることを確認済みだ。しかも、何故か時計機能すらもストップしていた。
「あー…これはなんとも絶望的な…。」
現代は耐震強度なるものが法律で決められている。もしここが日本であると仮定するなら、こんな明らかに放火魔にキャンプファイアーされそうな建物は建築すら認められていないだろう。
絶対これ、すぐに家に帰れるような状況じゃないわ。
「つか、今夜なのこれ?」
窓の外は暗幕が下りていると言ってもいいほど一面真っ黒。夜だとしても星や月が輝いてすらいない。
嫌な予感がしつつも隣の教室に入る。中に"何か"がいたら丸腰の私はまず間違いなく死んでるだろうが、幸いにも何もいなかったので教室内を調べ始める。

「………まじかー。」

他の教室にも目ぼしいモノはなかったので(何かこの言い方ドロボウみたいだな。)丸腰で廊下の先へと進むと、玄関らしきものがあった。
運が良ければ玄関から出れるだろうが…セオリー的にはまぁ…

「…うん、分かってた。どうせこんな展開ですよね。」

鍵もかかってないのに何故か開かないドア。うわー…萎える
大きな溜息を吐いて再び校舎へと戻る。
何かありそうなドアの前には積み上げられた机の山。何とか登れそうなので登って渡る。これ外開きだったら無駄骨だよな…


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