怨霊の学び舎O


前回までのあらすじ

若干ハイテンションになっていた向日葵は理科室を意気揚々と飛び出したが、早々に大柄な軍人さんに見つかってしまう。熱烈なラブコールを受けながら何とか無事逃げ出せたけど、今度は橙色の目の軍人にプリンセスホールドされたまま涙を舐められるなんていう少女漫画もビックリな展開!
やだ、これがモテ期!?突然のハプニングに倒れちゃいそう!でも駄目よ向日葵!私が今ここで倒れたら、境ちゃんとの約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、廃校から抜け出せるんだから!
次回、「向日葵死す!」デュエルスタンバイ!





はいはい、茶番茶番。所詮いくら現実逃避した所で現実は変わってくれないのです。
現在の状況、私の隣でカニバリズム野郎じゃないほうの軍人が寝ています。いや、そういう意味深な感じじゃなくて、ガチで私の肩に頭あずけて寝てます。
ドーシテコウナッタンデショーネ
マキちゃん曰く、時間制限があるらしいので何時までものんびりしてはいられない。早く保健室でリボンを貰って、3階への道を通してもらわないといけないのに…。
何で私は玄関でお昼寝中の軍人の隣で大人しくしてるのでしょうか?教えてえらい人。

「zzzz…。」

…これこっそり抜け出せるんじゃないか?熟睡してるっぽいし…。
相手の頭をゆっくりと壁にもたらせ、音を立てないように細心の注意を払って一歩前へ出る。

ガッ!

「何処へ行くつもりだ。」

目の前で存在を主張するツルハシ。床に刃先が刺さった状態で振動しているのを見ると、うっかり手が滑ったとかそんなんじゃなくて、隣の奴が刺したんだと分かる。
おいコラこちらとら一般人だぞ!うっかり口から心臓がこんにちわしそうになっただろうが。足が震えそうになるのを必死に堪える。姉上殿は言っていた。
こういう時はビビったやつが負けなんだと。まだ、負けるわけには行かないんだ…っ!

「だりぃ…テメェが逃げると俺の仕事が増えるんだよ。俺は早く帰って寝てぇのに。」

「いやいやいや、知らないよ!?私だって早く帰りたいんだよ!?」
「じゃあ動くな。」
「矛盾してるのに気づいて!?」

駄目だこいつ、何をいっても通じない。具体例を挙げるなら、呆けの入った高齢者に何度も夕飯を尋ねられるよな、そんなどうしようもない怒りと遣る瀬無さを感じる。結局、大人しく座っていろと言わんばかりの無言の圧力に負けて渋々と奴の横へ戻った。今となっては後の祭りだが、境ちゃんや骸骨さんの言う通り2階で待機してるべきだったのかもしれない。でもそうしたら3階にはずっと行けないままなんだよな…アレ?これ詰んでない?
八方塞がりもいいところな現状に、打開策を必死に探すも見つからない。
そもそも頭を働かせようにも相手の情報もないので、とりあえず情報収集から始めましょう。Let's 生存戦略!

「橙さん、橙さん。橙さんたちは何で此処に来たんですかー。」
「…橙じゃねぇ、田噛だ。」
「じゃあ田噛さんたちは何で此処に来たんですかー。」
「決まってるだろ、亡者を捕まえにだ。あと怠ィから喋んな。」
「軍人さんが亡者を捕まえるんですか?そりゃ、大変そうで…え?」

亡者を捕まえる…あれ?何かそのフレーズどっかで聞いたぞ?
脳内で数十分前に言われた言葉を思い出す。


桜の根元に眠るモノ鬼、つまりは獄卒ですよ。亡者の女性は悪霊になりかかっていましたから。
「獄卒というと、金棒持ってる角の生えた人型の…。」
人間が想像していらっしゃるのとは恐らく違うと思いますよ。

「アーッ!?」
「うるせぇ。」
「ファーッ!?」

脳内再生された言葉に絶滅の叫びをあげた私に、イラついた田噛さんが抜いたばっかりのツルハシを再び床に刺す。それにまた驚愕の叫びをあげる私。とりあえず叫びすぎて喉が痛い。

「ゴホッ…あ、あの…田噛さんってもしかして…獄卒だったり…します?」
「あ?さっきから言ってるじゃねぇか。」
「言ってないよ、そんなの一言も聞いてないよ!?」
「チッ……俺達は獄卒で、この校舎には亡者を捕まえに来た。」
「ご丁寧な説明ありがとうございます出来ればこのアイアンクローが無い状態で聞きたかあ痛たたたたた!潰れる!頭が!豆腐のようにクラッシュされる!」

流石にイラッとしていたのかアイアンクローをかましながら説明された。しかも亡者を捕まえる鬼とだけあって、握力がマジで半端ない。でも説明を省きすぎた貴方も悪いと思うの。

「…?」

頭の痛みに悶絶してる最中、ふと思いかえった。
マキちゃんって獄卒に追われてるって言ってなかったっけ…?

獄卒は亡者を追っていて、
骸骨さん曰く亡者は女性で、
マキちゃんは獄卒に追われてて、
亡者は怨霊になりかけてる。

「…いや、違うだろ。」

大きく頭を振り、頭に浮かんだ考えを消す。
だって怨霊とかってあれでしょう?井戸から出てきてテレビの画面を超えてくるあれでしょう?マキちゃんどう見たって普通の女の子だったじゃん。きっと彼女も生きた人間で、獄卒になんか色々あって追われたんだよきっと、痴情のもつれとか、痴情のもつれとかで。うん、そうだ。そうに決まってる。
背筋を這うような嫌な予感に必死で目を背けた。

我が姉上殿はもしもの為にと色々な事を教えてくれたが、怨霊だけは話すのを渋った。
決して近づくなと、絶対に同情も同調もしていけない。
結局それだけしか言ってくれなかった存在に迂闊に近づいていたかもしれないと姉上殿に知れたら猫パンチ(攻撃力53万)を食らうかもしれない。怨霊の存在よりも姉上殿の制裁の方が私にとっては恐怖である。
もしマキちゃんがそうだとしてもバレない様にしよ…。

第一、獄卒とマキちゃんのどっちを信じるかといわれたら、私は圧倒的にマキちゃんだ。最初の暗い黄色の目の獄卒は私に食わせろと言ってきたし、隣の獄卒は鎖で転ばせたり涙舐めてきたりとカニバリズムを疑いたくなる行動しかとってない。そんな相手に、大切なことを教えてくれたマキちゃんのことをバラすつもりは毛頭ないのだ。
だって可愛い女の子と危害を加えて来た男の子、どっちを優先します?
女の子一択でしょうJK。

「…お前どっかで亡者を見たか。」

既に会っていると確信しているのか、私の一挙一動を見逃さないと言わんばかりに此方を睨みつける田噛さん。うーん…どうやってマキちゃんについて誤魔化そうかな。この人さっきから見てると、意外と頭使ってそうなタイプなんだよなぁ…勘だけど。

「おーい田噛!亡者こっちにいたぞー!」

幸いにも、私の少ない脳みそを絞る必要はなかったらしい。階段の方から男の声、しかも私に捕食宣言した奴らしき声が隣の彼を呼んだ。即座に隣にあった棚の影に隠れる。リアル鬼ごっこは、もうご遠慮願いたいんです。田噛さんは怠そうに立ち上がると階段の方へと向かう。私が座ったままなのを見て少し考え込むように眉を寄せたが、仲間の方へ向かうのを優先したらしい。

「チッ、面倒くせぇ…オイ。」
「…何でしょうか。」
「すぐ戻る、絶対にそこから動くんじゃねぇぞ。」

脅すように、そう告げると田噛さんは階段を昇って行った。
釘刺されちゃったなー、
でもなー

「…さて、保健室に向かいますかね。」

約束じゃないんだし、言われた通りにする義理は無いよねぇ?

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