トイレの花子さんO
トイレの花子さんといえば校舎内のとある女子トイレで3回ノックをした後「花子さん、いらっしゃいますか?」と尋ねると、おかっぱ頭の少女に異世界へつれていかれるという非常にメジャーな怪談である。ただ、この怪談は学校によって花子さんがいるトイレの場所が変わる。壁の血文字が親切に教えてくれた話によれば2階東棟の女子トイレらしいが、問題はそこからだ。
「トイレって言っても、どのトイレだよ…。」
この校舎にはトイレ一ケ所につき4つの個室がある。奥の個室はまず便座がないので除くとしても、残り3つだ。第六感とかそんな便利なスキルを私は持っていない。
「私の小学校の怪談と2階の女子トイレっていうくだりは一緒だし、多分同じだよね…。」
奥から3番目の個室の前に立ち、ドアを叩く。
コンコンッ…
反応がない。
コンコンコンッ!
ウンともスンとも返事がない。留守だろうか?いや、まさか持ち場を離れるわけないから居留守か。少しばかりイラッとした。いくら温厚たる私だって、邪魔をされた挙句が居留守で誤魔化されたら少し頭にくる。
俯いた向日葵は深く息を吐きだし、もう一度全身に酸素を回すように息を吸うと笑顔を浮かべて扉へと向き直った。そして
「はーなちゃん!」
ドンッドドドンドンカッ!
笑顔で高速ノックを繰り返す。時折金具部分を叩くようにしてリズムを刻みながら歌い続けた。気分は引きこもってしまった姉を遊びに誘う少女である
「雪だるま作ーろー!!」
ドンドドカカドンッ!カッ!
今のところ打ち逃したポイントはない。脳裏では手足を生やした和太鼓がファンシーな顔で得点をカウントしている。
「ドアを開けて―!」
カッ!カカドドドン!
もう少しで30コンボ…っ!
バンッ!!
「五月蠅いわよ!!」
「まさかの隣!?」
お怒り気味の声と共に隣のドアを盛大に開けて現れたのはスカートをサスペンダーで吊った、おかっぱ頭の少女。服装は昭和臭が漂う筈なのに古臭く感じないのは少女の顔が美人に分類されるせいだろうか。
「花子さんですか?それとも通りすがりの美少女ですか?」
「訳が分からないわ。…花子よ。何か用かしら?」
呆れた表情を浮かべてこちらを見据える彼女に果てしないデジャヴを感じる。さっきもそんな表情をされたような…。
「3階へ行きたいんですけど、無限ループどうにかしてもらえませんか?」
「…そうね、じゃあ探し物をして頂戴。リボンなんだけど、なくして困ってるのよね。でも探しに行くのも億劫だし…見つけてくれたら通してあげるわ。」
「落とし物が多発しやすいの?この校舎って。どんなリボン?」
「赤いやつよ。」
「柄は?豹柄?」
「何でヒョウ柄をチョイスしたの!?普通の赤一色よ!」
「普通の赤一色のリボンね。分かった。」
しかし、リボンかぁ…今まで見てきた所にはなかったし、隣の教室か1階かなぁ…境ちゃんにも聞いてみるか…。トイレを出ようと一歩踏み出したところで、思い出す。そういえば、彼女には聞きたいことがあったのだ。
「あの、後一つ聞きたいんだけど。」
「…何かしら?」
「毎年群馬で家族会議をしてるって都市伝説があるんですが、何で群馬をチョイスされたんです?」
「知らないわよ!いいからさっさと探してきてちょうだい!」
何故か怒られた。
一応花子さんの居る個室以外を確認した後、トイレを出る。
とりあえず最早恒例となりつつある教室探しを始めよう。3つあるので、少しは期待できるはず…!
「金具じゃなくてキーアイテムを…!それかバールのようなもの…!」
ブツブツと呪文のように唱えながら机の中を一つ確認する。しかし、どの教室にもキーアイテムどころか金具すらもなかった。すっかり萎えてしまったテンションのまま、仕方なく理科室へと戻る。もう、困った時は骸骨さんと境ちゃんに聞けば大体は何とかなる気がする。
ガラッ
「骸骨さーん」
おや、お帰りなさい。彼女は通してくれそうですか?
「それがリボンを見つけないと通してくれないって言われちゃって…。」
リボンですか…。私は存じ上げませんが、保健室には収集癖がいるらしいですよ。彼なら持っているかもしれませんね。
「保健室…?」
ええ。1階の西棟のトイレと教室の間の廊下を右に曲がったところにありますよ。
存外早く済みそうな探し物にテンションが一気に上昇していく。3階に行けるようになるのも時間の問題かな!そして校舎を脱出するのも!
「ありがとうございます。やっぱり1階か、境ちゃんと合流できるかな。」
いえ、お気になさらないでください。ただ、1階は獄卒達がいるので今は行かない方がよいのでは?
「私、スニ―キングミッション得意なので多分大丈夫です!私は段ボール!そう!歩く段ボールだと思えばいいんだ!」
段ボールだと逆に目立つ気がするのですが?
「行ってきます!帰ってきたら、私、絶対にこの校舎を脱出するんだ…っ!」
理科室の扉に手をかけて、廊下へと飛び出す。待たせたな!そうです、私がスネー○です!
テンションが上がりきっていた私は知らなかった。私が飛び出した後の理科室で骸骨さんがポツリと呟いていたことを。
鏡の立ち去り方に違和感を感じたのですが、あれは本物の性格を反映した結果だったのですね…。
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トイレの花子さんといえば校舎内のとある女子トイレで3回ノックをした後「花子さん、いらっしゃいますか?」と尋ねると、おかっぱ頭の少女に異世界へつれていかれるという非常にメジャーな怪談である。ただ、この怪談は学校によって花子さんがいるトイレの場所が変わる。壁の血文字が親切に教えてくれた話によれば2階東棟の女子トイレらしいが、問題はそこからだ。
「トイレって言っても、どのトイレだよ…。」
この校舎にはトイレ一ケ所につき4つの個室がある。奥の個室はまず便座がないので除くとしても、残り3つだ。第六感とかそんな便利なスキルを私は持っていない。
「私の小学校の怪談と2階の女子トイレっていうくだりは一緒だし、多分同じだよね…。」
奥から3番目の個室の前に立ち、ドアを叩く。
コンコンッ…
反応がない。
コンコンコンッ!
ウンともスンとも返事がない。留守だろうか?いや、まさか持ち場を離れるわけないから居留守か。少しばかりイラッとした。いくら温厚たる私だって、邪魔をされた挙句が居留守で誤魔化されたら少し頭にくる。
俯いた向日葵は深く息を吐きだし、もう一度全身に酸素を回すように息を吸うと笑顔を浮かべて扉へと向き直った。そして
「はーなちゃん!」
ドンッドドドンドンカッ!
笑顔で高速ノックを繰り返す。時折金具部分を叩くようにしてリズムを刻みながら歌い続けた。気分は引きこもってしまった姉を遊びに誘う少女である
「雪だるま作ーろー!!」
ドンドドカカドンッ!カッ!
今のところ打ち逃したポイントはない。脳裏では手足を生やした和太鼓がファンシーな顔で得点をカウントしている。
「ドアを開けて―!」
カッ!カカドドドン!
もう少しで30コンボ…っ!
バンッ!!
「五月蠅いわよ!!」
「まさかの隣!?」
お怒り気味の声と共に隣のドアを盛大に開けて現れたのはスカートをサスペンダーで吊った、おかっぱ頭の少女。服装は昭和臭が漂う筈なのに古臭く感じないのは少女の顔が美人に分類されるせいだろうか。
「花子さんですか?それとも通りすがりの美少女ですか?」
「訳が分からないわ。…花子よ。何か用かしら?」
呆れた表情を浮かべてこちらを見据える彼女に果てしないデジャヴを感じる。さっきもそんな表情をされたような…。
「3階へ行きたいんですけど、無限ループどうにかしてもらえませんか?」
「…そうね、じゃあ探し物をして頂戴。リボンなんだけど、なくして困ってるのよね。でも探しに行くのも億劫だし…見つけてくれたら通してあげるわ。」
「落とし物が多発しやすいの?この校舎って。どんなリボン?」
「赤いやつよ。」
「柄は?豹柄?」
「何でヒョウ柄をチョイスしたの!?普通の赤一色よ!」
「普通の赤一色のリボンね。分かった。」
しかし、リボンかぁ…今まで見てきた所にはなかったし、隣の教室か1階かなぁ…境ちゃんにも聞いてみるか…。トイレを出ようと一歩踏み出したところで、思い出す。そういえば、彼女には聞きたいことがあったのだ。
「あの、後一つ聞きたいんだけど。」
「…何かしら?」
「毎年群馬で家族会議をしてるって都市伝説があるんですが、何で群馬をチョイスされたんです?」
「知らないわよ!いいからさっさと探してきてちょうだい!」
何故か怒られた。
一応花子さんの居る個室以外を確認した後、トイレを出る。
とりあえず最早恒例となりつつある教室探しを始めよう。3つあるので、少しは期待できるはず…!
「金具じゃなくてキーアイテムを…!それかバールのようなもの…!」
ブツブツと呪文のように唱えながら机の中を一つ確認する。しかし、どの教室にもキーアイテムどころか金具すらもなかった。すっかり萎えてしまったテンションのまま、仕方なく理科室へと戻る。もう、困った時は骸骨さんと境ちゃんに聞けば大体は何とかなる気がする。
ガラッ
「骸骨さーん」
おや、お帰りなさい。彼女は通してくれそうですか?
「それがリボンを見つけないと通してくれないって言われちゃって…。」
リボンですか…。私は存じ上げませんが、保健室には収集癖がいるらしいですよ。彼なら持っているかもしれませんね。
「保健室…?」
ええ。1階の西棟のトイレと教室の間の廊下を右に曲がったところにありますよ。
存外早く済みそうな探し物にテンションが一気に上昇していく。3階に行けるようになるのも時間の問題かな!そして校舎を脱出するのも!
「ありがとうございます。やっぱり1階か、境ちゃんと合流できるかな。」
いえ、お気になさらないでください。ただ、1階は獄卒達がいるので今は行かない方がよいのでは?
「私、スニ―キングミッション得意なので多分大丈夫です!私は段ボール!そう!歩く段ボールだと思えばいいんだ!」
段ボールだと逆に目立つ気がするのですが?
「行ってきます!帰ってきたら、私、絶対にこの校舎を脱出するんだ…っ!」
理科室の扉に手をかけて、廊下へと飛び出す。待たせたな!そうです、私がスネー○です!
テンションが上がりきっていた私は知らなかった。私が飛び出した後の理科室で骸骨さんがポツリと呟いていたことを。
鏡の立ち去り方に違和感を感じたのですが、あれは本物の性格を反映した結果だったのですね…。
「トイレって言っても、どのトイレだよ…。」
この校舎にはトイレ一ケ所につき4つの個室がある。奥の個室はまず便座がないので除くとしても、残り3つだ。第六感とかそんな便利なスキルを私は持っていない。
「私の小学校の怪談と2階の女子トイレっていうくだりは一緒だし、多分同じだよね…。」
奥から3番目の個室の前に立ち、ドアを叩く。
コンコンッ…
反応がない。
コンコンコンッ!
ウンともスンとも返事がない。留守だろうか?いや、まさか持ち場を離れるわけないから居留守か。少しばかりイラッとした。いくら温厚たる私だって、邪魔をされた挙句が居留守で誤魔化されたら少し頭にくる。
俯いた向日葵は深く息を吐きだし、もう一度全身に酸素を回すように息を吸うと笑顔を浮かべて扉へと向き直った。そして
「はーなちゃん!」
ドンッドドドンドンカッ!
笑顔で高速ノックを繰り返す。時折金具部分を叩くようにしてリズムを刻みながら歌い続けた。気分は引きこもってしまった姉を遊びに誘う少女である
「雪だるま作ーろー!!」
ドンドドカカドンッ!カッ!
今のところ打ち逃したポイントはない。脳裏では手足を生やした和太鼓がファンシーな顔で得点をカウントしている。
「ドアを開けて―!」
カッ!カカドドドン!
もう少しで30コンボ…っ!
バンッ!!
「五月蠅いわよ!!」
「まさかの隣!?」
お怒り気味の声と共に隣のドアを盛大に開けて現れたのはスカートをサスペンダーで吊った、おかっぱ頭の少女。服装は昭和臭が漂う筈なのに古臭く感じないのは少女の顔が美人に分類されるせいだろうか。
「花子さんですか?それとも通りすがりの美少女ですか?」
「訳が分からないわ。…花子よ。何か用かしら?」
呆れた表情を浮かべてこちらを見据える彼女に果てしないデジャヴを感じる。さっきもそんな表情をされたような…。
「3階へ行きたいんですけど、無限ループどうにかしてもらえませんか?」
「…そうね、じゃあ探し物をして頂戴。リボンなんだけど、なくして困ってるのよね。でも探しに行くのも億劫だし…見つけてくれたら通してあげるわ。」
「落とし物が多発しやすいの?この校舎って。どんなリボン?」
「赤いやつよ。」
「柄は?豹柄?」
「何でヒョウ柄をチョイスしたの!?普通の赤一色よ!」
「普通の赤一色のリボンね。分かった。」
しかし、リボンかぁ…今まで見てきた所にはなかったし、隣の教室か1階かなぁ…境ちゃんにも聞いてみるか…。トイレを出ようと一歩踏み出したところで、思い出す。そういえば、彼女には聞きたいことがあったのだ。
「あの、後一つ聞きたいんだけど。」
「…何かしら?」
「毎年群馬で家族会議をしてるって都市伝説があるんですが、何で群馬をチョイスされたんです?」
「知らないわよ!いいからさっさと探してきてちょうだい!」
何故か怒られた。
一応花子さんの居る個室以外を確認した後、トイレを出る。
とりあえず最早恒例となりつつある教室探しを始めよう。3つあるので、少しは期待できるはず…!
「金具じゃなくてキーアイテムを…!それかバールのようなもの…!」
ブツブツと呪文のように唱えながら机の中を一つ確認する。しかし、どの教室にもキーアイテムどころか金具すらもなかった。すっかり萎えてしまったテンションのまま、仕方なく理科室へと戻る。もう、困った時は骸骨さんと境ちゃんに聞けば大体は何とかなる気がする。
ガラッ
「骸骨さーん」
おや、お帰りなさい。彼女は通してくれそうですか?
「それがリボンを見つけないと通してくれないって言われちゃって…。」
リボンですか…。私は存じ上げませんが、保健室には収集癖がいるらしいですよ。彼なら持っているかもしれませんね。
「保健室…?」
ええ。1階の西棟のトイレと教室の間の廊下を右に曲がったところにありますよ。
存外早く済みそうな探し物にテンションが一気に上昇していく。3階に行けるようになるのも時間の問題かな!そして校舎を脱出するのも!
「ありがとうございます。やっぱり1階か、境ちゃんと合流できるかな。」
いえ、お気になさらないでください。ただ、1階は獄卒達がいるので今は行かない方がよいのでは?
「私、スニ―キングミッション得意なので多分大丈夫です!私は段ボール!そう!歩く段ボールだと思えばいいんだ!」
段ボールだと逆に目立つ気がするのですが?
「行ってきます!帰ってきたら、私、絶対にこの校舎を脱出するんだ…っ!」
理科室の扉に手をかけて、廊下へと飛び出す。待たせたな!そうです、私がスネー○です!
テンションが上がりきっていた私は知らなかった。私が飛び出した後の理科室で骸骨さんがポツリと呟いていたことを。
鏡の立ち去り方に違和感を感じたのですが、あれは本物の性格を反映した結果だったのですね…。