家庭科室の密談O


「貴女………。」
「あ………。」

お互いに見つめ合ってから数秒、沈黙がその場をつつむ。私は襲ってきた感情に口をパクパクと魚の様に動かす。

「…っ、あなたも私を…。」
「ひ、

人だぁぁあああ!!!」

「は?」

立ち上がり、彼女の前へとダッシュする。

「ねぇ、貴方もここに巻き込まれたんだよね!んでもってここから脱出しようとする人なんだよね!そうだよね!よかったー!境ちゃんもすっごい力強いんだけど、今私一人で…」
「私の話を聞いてちょうだい!!」
「ごめんなさい!」

最初圧倒されていたらしい彼女は私のマシンガントークを遮るように怒鳴った。
とはいえ、私自身ちょっと興奮しすぎたと自覚済みなので少し自重する。

「えっと、ごめんね。それで、なんだっけ?」
「…やっぱり、もういいわ。貴女、明らかに私を追ってきたわけじゃないみたいだし。」
「待って、追ってきた?怪異にでも狙われたの?」
「違うわ。鬼よ、獄卒。」

獄卒。
境ちゃんが今足止めしている相手。私が会わない方がいい怪異。
でも、なんで目の前の彼女は追われている?
もしかしたら私がこんなところに連れてこられたのに関係がありそうだが、あまり聞く気にはならなかった。無いとは思いたいが、もしこれで痴情のもつれだったら凄いいたたまれなくなる。

「…あ、ねぇねぇ。私向日葵って言うんだけど、貴女の名前は?」
「…マキよ。」
「マキちゃんは何か探してるの?さっき無いって言ってたけど。」
「……。」
「あ、別に言いたくなかったら言わなくていいよ。ただ、手伝えることがあるかもと思っただけだから。」
「……ネックレスを探してるの。大切な友人からのプレゼント。あの獄卒に追われてる途中で落としたみたいで…。」
「どんなやつ?」
「金具でつながってて、青い石がついてるわ。」
「うーん…1階と2階のこっち側の部屋は全部見てきたけど、それっぽいのは無かったなぁ…、3階は見た?」
「いいえ、まだよ。」
「私これから反対側の棟の方見てくるつもりだから、一緒に探してみるよ。」

しかしネックレスとかって落ちたら直ぐに気づくだろうし、もしかしたら壊れてるかもなぁ…境ちゃんが帰ってきたら聞いてみるか…。
嫌な可能性を思いついてしまい、眉をひそめそうになる。

「…なんで?」
「え?」

マキちゃんは渋い顔をしてこちらを睨んでいた。

「どうして、知らない相手の手伝いなんかできるのよ。アンタもこのままだと危ないのに。」

なんかそのセリフ漫画にでも出てきそうですね。と茶化したくなったが流石に空気を読んで真っ当な返事をしておく。いや、特に理由はないんです。本当に。

「いや、いい人そうだし…困ってるみたいだから…っていうか、私も危ないってどういうこと?」

「いい人そうって…第一、普通の人間が時空の歪んだ場所にずっといて大丈夫な訳ないじゃない。このままだと、



一生ここで彷徨うわよ。」


………。

言われた言葉が理解するまで数秒。

「うわぁああああ!?!?なにそれ!なにそれ!?初めて聞いたんだけど!?タイムリミット制なのこれ!?まだ全然玄関開く気配すらないのに!つか待って、あと残り時間どんくらいなの!?」

ようやく脳みそが理解すると同時に汗が噴き出る。何そのシステム初耳なんだが。
マキちゃんの肩を掴み、急いで尋ねる。

「知らないわよ!?貴女いつからここにいるのよ!」

顔を後ろに引きながらマキちゃんが負けじと叫び返す。廃校の一室で二人の少女が叫び合うというカオスな風景がひろがっていた。

「わ、わかんないけど、まだ一日経ってないはず…。」
「すっごい曖昧ね…。…とにかく!貴方は早く此処から脱出する方法を見つけなさい。」

指を私の方へ向け、ビシッと効果音でも付きそうな仕草と共にそう告げる。
一方の私は、結論が以前振り出しのまま一歩も進んでないのに坂を転がり落ちるように状況だけが悪化する現状に涙が溢れそうになる。
オカシイナー、視界がかすむよ…。

「うん…早く脱出方法とネックレス見つけるよ…。」
「ねぇ、貴女本当に私の話し聞いてた?」

マキちゃんは何故か頭を抱えていた。解せぬ。

「もういいわ…、私は3階の方を見てくるから…。」
「あ、マキちゃんマキちゃん。最後に一個だけ聞いてもいい?」

扉に手をかけながら振り向く、彼女に笑顔を向ける。

「どうして、見ず知らずの私を見捨てずに色々教えてくれたの?」

ちょっとした仕返しの意も込めて質問する。
驚いた顔をした後、マキちゃんは少しだけ拗ねたように小声で答えた。

「…だって、貴方は私を見てくれたもの。」


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