襲撃は倍返しが基本
勇者っていうのは現代のバックパッカーだったり、ヒッチハイカーだったり同じようにその日の寝床が定まってない。間違ってもお気楽な観光旅行みたく、今日はどこぞのホテルで明日は旅館だなんて事にはならないのだ。

ーーこの町を超えたら次は東の洞窟に行かなければ。
ーーえ?町から徒歩で2日もかかるの?
ーー寝床どうすんの?野宿?

最初は地面の固さや木々を揺らす鳥の羽ばたきのせいで中々寝付けなかった。
だが、直ぐに気づいたのだ。そんなの序の口でしかないと。

「クソが!夜に襲ってくんじゃねぇよ!こちらとら絶賛シャッターガラガラ閉店中ですぅ!昼間に出直して来い三下がっ!!」
「勇者!キャラが!キャラがやばい!」

そう、夜中に襲ってくるのだ。敵が。
日中もモンスターと悪戦苦闘を繰り広げ収入を得ている私たちが、何故疲れ切っている夜も大した収入にもならない雑魚と戦闘しなきゃならないのか。モンスター、テメェは私を怒らせた。正直もう理性が半分以上飛んでる状態で戦っていたので口も悪ければ手足も魔法も出る。でも自称夜の世界に生きる漆黒の白魔術師(あれ?逆か?)以外のメンバーもキレてヤバいスキル連発してたから、私だけが悪いわけじゃないと思うの。リセットを何度繰り返そうとも深夜の敵には問答無用というポリシーで生きて来たからか、野宿してると起床した時周りにはモンスターの死骸の山が出来てることも少なくなかった。これがオートバトル機能でしょうか?

「…つまり、私は悪くない。」

朝。
柔らかい布に預けていた体を起こした私が見たのは、床に倒れた伏したピンク色の髪の青年だった。あー…さてはこいつ、夜襲ってきたな。昨夜手入れしたばかりの日本刀を没収し、顔を洗いに行く。

「…ぷぁっ…そういや、コーヒーか紅茶買ったっけ?」

冷たい水でようやくクリアになった思考。対照的に、目の前の鏡には死んだ目の女が映っている。目が腐ってやがる…遅すぎたんだ。人生に救いなんてなかったんです。
一夜あけて、全てが実は悪夢でした。私は仲間と世界を救った勇者様であり、王様から褒章として一生楽してくらせるだけのお金と住居を頂いてて、うたた寝してたらこんな悪夢を見てしまった。…なんて都合よくは行かなかったらしい。拾った青年が床に倒れているインパクトで全部吹っ飛んでたが、現実は受け入れざるを得ない。
もう、私があのRPG世界に戻ることはないのだ。

「…まぁ、資金と住居をもらっているって意味では夢が叶ったとでもいうべきなんだろうな。」

まさに0からのリスタート、又は強くてニューゲーム。
自身を鼓舞するようにいった所で何も変わらない。私はこの世界では天涯孤独で常識も若干外れてる人間。しかも家の中には夜に襲ってくるような訳の分からないピンク色。
…最後は自業自得か。とはいえこんなSAN値直葬すぎる強くてニューゲームなんて聞いたことねぇわ。いあいあくとぅるふふたぐん。これ以上発狂させられるもんなら発狂させてみろよ。既に精神値は0でした。

「あ、ラッキー。」

運よく戸棚にあったインスタントコーヒーに湯を注ぐ。キッチンにコーヒーの香ばしい匂いが広がる。ブラックなんか飲めるわけないので昨日買った牛乳を入れてカフェオレに。一口飲んでようやく人心地つく。

「さて、あのピンクをどうするかだな。」

とりあえず、夜襲ですら私に撃退される程度じゃ魔王を倒せたとは到底思えない。大方、未だクリアには至らなかった状態で此処へ送り込まれたのだろう。
何それうらやましい、此方とら倒すまで無限ループだったんだぞ…。

「…ん?」

端末を確認しながらカフェオレを啜る。先ほど没収した刀は昨日手入れをしたにも関わらず、既に耐久値が下がっていた。あ、これ絶対夜襲の時の反撃の所為ですわ。いやでもアレは正当防衛ですしおすし、私は悪くないはず。
自分で直してもらおう。めんどくs…自分の持ち物の管理は自分でするべきだよね!


「というわけでだ、そこのピンク君。何で夜襲してきたのか50文字以内で説明しろ。」
「…気づいたんですね。」
「そりゃ、勇者様ですしおすし。」

寝室に倒れていたはずの青年が入口から姿を現す。
昨夜は私が疲れていたのと青年がボロボロだったこともあるんだろうが、明るい中でじっくりとその姿を見る機会なんて無かったし、するつもりも無かった。日の光が差し込む今、改めてその姿を見て真っ先に思う。

なんだお前、どこの人妻だよ。

気だるげな色気とピンク色の髪が相まって、なんというか…こう…男子高校生がベッドの下とかに隠す本に出てきそうな印象だった。思わず真顔になる。

「…あのさ、一応聞いておくけどどっかのビデオの男優さんだったりしないよな。頼むから、あれもプレイですとか言わないでよ。」
「貴女は一体何を言ってるんですか。」

どうやら違うらしい、本当によかった。
心の底から安堵していた私を置いてピンクは嘲るような表情を浮かべる。

「…貴女も天下人の象徴が欲しいのですか。」
「え、アイテムは間に合ってます。」
「は?」

突然言われた言葉に脳内が疑問符で埋め尽くされる。
え?何?点火人の小腸?何それグロイし絶対呪われたアイテムだろ。
私の反応が予想外だったのか、虚を突かれたように目を瞬く青年。

「…要らないのですか?」
「いや、別にそういう目的で君を拾ったわけじゃないんだけど…。」
「じゃあ何故僕を…。」
「だって、君も勇者でしょ?」
「…ゆう、しゃ?」

……あれ?何か話噛みあってない気がするんだが。

「多分根底から齟齬が発生してる気がする。」
「先ほどから、貴女一体何者なんですか。」
「勇者。」
「…は?」
「突如として現れた魔王を倒すべく、とある国が出した偉大なる英雄にして人柱みたいなもん。あ、やべぇこの言い方だとすっげぇ厨二臭いから、やっぱなしなし。」
「…哀れな、頭を強打したんですね。」
「むしろこれが私の妄想だったらどんだけよかっただろうよ。」
「は?」
「私は話したし、アンタの番。」

カフェオレを一口啜る。本当に、全部全部夢だとしたらどんだけ良かっただろうか。
促すように視線を向けると少し躊躇した後、青年は口を開いた。

「…僕は宗三左文字、刀剣男士です。」

お願いだから、日本語喋ってくんないかな。
何?刀剣男士って。新種のジョブなの?侍的な、日本刀で戦う系のジョブなの?

「えっと…、トウケンダンシ?って何だか教えてもらってもいい…?」
「…知らないのに拾ったんですか?」

呆れ顔のまま此方をみる宗三君。いや、さっきも言ったけど勇者だと思って同情しちゃったんだよ。だからその顔やめよう?根絶丁寧且つ毒舌交じりに教えてくれたその内容は、先ほど私が語った厨二的内容と大差ないほどの荒唐無稽さだった。

歴史修正主義者と戦うべく、刀の付喪神を喚び起して、過去に送り込んで戦わせる。
ワー、スゴーイ!ヒーローミターイ(棒読み)

「頭の病院行く?」
「貴女にだけは言われたくないですね。」
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