下ネタに定評のある宿屋の主
勇者っつっても最初から俺、TUEEEE!みたいなバーサーカーだったわけじゃない。当然ながら出来るだけ戦闘は避けたし、それこそ泥棒みたいにコソコソと依頼をこなしたりもした。ドラゴンの巣から卵を強奪してこい?私のレベルで討伐できると思ってんなら小学校からやり直して来いよ。思ったんだが、何で村人はあんなにドラゴンの卵に飢えていたんだろう。

「ねぇ、狐。何でそのお守り?を持ってるやつが特定できたの?」

軋む床板に注意を払いつつ、廊下を渡る。念には念を入れ、髭切君は陽動役として先行してもらっている。奴等がいなくなった後に空き巣に私が入るという算段だ。…どう考えても犯罪だわ。おまわりさん、私です。

「その…私が封印される以前から元審神者様は一等、鶴丸様の外見を気に入っておいででして…。」
「戦場に出て、死んだりしないようにってこと?」
「あ、いや…多分、それもあるとは思いますが…。」

口ごもる狐に眉間にしわが寄る。はっきりと言えよ。

「…夜の、番をですね、その、シてる最中に折れないようにと…。」
「……待て待て待て。」

予想外の地雷に思考が停止した。
え?どういうことなの?どういうことなん?

「ツッコミたい部分が多すぎるが、それは一先ず置いておくとして…え?審神者女の子だよね?どんだけハードなプレイしてたん?嗜虐趣味とは聞いていたが、どんだけだよ。」

女の子に迫られるとかそれ、どんな薄い本?とか男のロマンじゃないの?とかそういう考えは吹っ飛んだ。え、えぇぇぇぇぇ・・・・。

「あ、違います。元審神者様は男です。」
「まさかの阿部さん案件だった!」

こいつはひでぇ!ゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇ!同意の上なら特にツッコむことも無いが、その鶴丸とやらがB専でもない限り審神者が強制したんだろうな。武器の付喪神なのに死因がハードプレイされたからとか…
うわー…うわぁ……心の底から同情する。

「御存知かもしれませんが、鶴丸様はあの容姿ですし線が細いことも相まって…。」

鶴丸の被害録(予定も含む)
・痛めつけられた
・アーッ♂
・御守りを盗まれる New!!

狐と私は黙ったまま、足を進める。うーん…人間ってマジ罪深い…うん……まぁ、今回は命より大切なものは無いということで、大目に見てもらおう。

「そういえば、私は貴女様を何とお呼びすれば…。」
「あー……。…勇者でいいや。皆そう呼んでるし。」
「…一応聞いては置きますが、それが真名ではございませんよね?」
「勇者が本名とか、DQN過ぎるだろ。」

最近のキラキラネームでも流石に其れはないだろ、多分。
室内に誰も居ないことを確認した後、探索を開始する。時間短縮のためにひっくり返した棚はそのまま。タンスから床へと投げた服はぐしゃぐしゃのまま山積み。結局、目当てのお守り・極が見つかった頃には部屋は無残な有様になっていた。

「さて、片づ…勇者様、どちらへ行かれるのですか!?」
「え?むしろ狐こそ何してんの?家主が来る前にずらかるぞ。」
「え、ちょ、この状態で放置するんですか!?」
「鉢合わせたら最悪じゃん。こちらも緊急事態だし是非も無し是非も無し。むしろ弱みになるような物が見つからなかったのが問題だ。うっかりヤバめの性癖患ってたら、それで時間を稼ぐことができたのに。」
「鬼かアンタ!」

ギャーギャー騒ぐ狐を拾い上げ、離れへと再び向かう。幸いにも髭切君の陽動のおかげか、刀剣男士と遭遇することなく問題の部屋へと到着することができた。

「なんと…ここまでとは………。」
「さて、お守りを使って端末を取ってくれば…。」
「…勇者様。」
「ん?」
「元審神者様がしでかした事は到底許されることではございませんでした。」

え。何か語りだしたんだけど、この狐。

「いや、狐。あのな?それよりも一刻でも早くアイテム制限解除しないと私たちがヤb」
「私が封印される前から刀剣男士様達は元審神者様を非常に憎み、恨んでいらっしゃいました。それはもう、審神者様だけでなく人間に失望されたかのように」
「おう、せやな。それで今私たち窮地に立たされてるもんな。だから早くアイテm…」
「それでも付喪神は人と共にあった神。こんのすけは僅かでも元審神者様への慈悲を期待しておりました。」

いや、それは普通に考えて無理だろ。ブラック企業も真っ青のピュアブラックな職場だぞ。菩薩ですら笑顔でアッパーくらわすレベルだろ、これ。
いや、そんなことはどうでもいいんだよ。それよりも早く端末回収に行かないと。

「けれど、彼の神々は人を呪ってしまった。最早彼らは神ではな…って勇者様ぁぁぁぁあああ!?!?」

狐の無駄に長い独白に、遂に私の堪忍袋の緒が切れた。なんだ此奴、無駄に話がなげぇし、人の話しきかないとか。本当に何なの?馬鹿なの?死ぬの?独白はタイミングを見計らってやらないとプレイヤーにスキップボタン連打されるぞ。
第一、無駄に流れるこの時間は髭切君が囮役として体を張ってる時間とイコールだ。私が拾った刀なんだから、最後までしっかりと面倒を見るのが道理というものだろう。
お守りを持ったことを確認して、黒い煙に満ちた部屋の障子を開く。狐が悲鳴をあげてるような気がするけど、知るか。そのまま室内へと一歩踏み出した。

「っ、ぐ…ぅ!」

瞬間、RPG世界で体験し過ぎた感覚に襲われる。
…なるほど、確かにこれは即死だわ。
心臓を貫かれ、四肢を切り刻まれるような痛みに息の詰まるような生き苦しさ。
しかしポケットの中で何かが砕けるような衝撃の後、全ての痛みは圧し掛かる様な怠さに変わった。即死効果は無事に回避できたという事だろう。

「…っは、だるぅ…。」

私、家帰ったら速攻でオフトゥンにダイブするんだ。
視界の端に映る黒い靄に包まれた塊は見なかったことにして、端末を探す。そういえば端末ってスマホなの?ガラケーなの?タブレットなの?もしもスタイリッシュなニュータイプだった場合見つけられる自信ないぞ。狐が喋ってる時点で、既に現状はかなりのニュータイプだけど。そうです、私がニュータイプ。……さっさと探そう。
幸いにも端末はオーソドックスなスマホタイプだったので早々に見つけることは出来たのだが、そこからが問題だった。

「……駄目です。セキュリティレベルまで弄られたらしく、私の権限では…。」

まさかのセキュリティ問題/(^q^)\オワタ
ここまで来てそれはないだろうと八つ当たり気味に狐を脅す。コイツ、今までを振り返ってみれば無駄に長い一人語りしかしてねぇじゃん。

「おしきた、今晩の野営の飯は狐だな。」
「げ、限定範囲だけなら!本丸のゲート周辺のみならば解除はできます!」

ゲートというのは髭切君が粉砕☆玉砕☆大喝采!!したアレか?…壊した事狐に伝え忘れてたけど、あのビジュアル系達が鬱憤晴らしに壊した事にすればいいか。あれだ、立つ鳥跡は気にせず。

「…仕方ないな、それでいいや。」
「それではゲート周辺の解除をしますね。『……出陣ゲート周辺の設定を初期化しております…初期化中…5%、9%……27%…』」
「いや、その必要は無いぜ?」

視界の端で鈍色が煌めいた
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