案内人は行方不明者
30秒で分かる主観的あらすじ
新入りの反抗期に頭を悩ませる元勇者と正妻(仮)。ここは何か突破口が必要ではと話し合っていると、勇者は問題の新入りと共に魔王城めいた様子の本丸へ行きついてしまう。装備がスーパーの袋(ちくわとちくわぶ入り)では戦えない、ここは穏便に話を聞いてみようと勇者は言うが、思春期の荒ぶる反抗心が抑えられない髭切は思わず源氏流ダイナミックお邪魔しますをしてしまう。見事瓦礫と化した門の謝罪と弁償をするために城内へと向かう二人。しかし、前衛的なアートが施された一室に色々とテンションが上がりすぎた髭切は溢れ出るパトスのまま行動をしてしまう。当然警戒するヴィジュアル系イケメン達。勇者は必死で話し合いを求めるが遂には髭切からも不穏な言葉をもらう。やってらんねぇ!こいつ等の頭の中はハッピーセットかよ!

「いや、だから髭切君。とりあえずね、話を聞くところから始めない?現状理解とっても大切。」
「主は下がってて。話し合いは大切だけど、今回はもう遅いよ。十分に待ったしね。」
「まだ会ってから3分も経ってないよ!?」

某大佐ですら3分待ってくれたというのに容赦ないね!あと君、レベル的には滅茶苦茶弱いから。戦うよりも逃げるの方が生存率高いんだけどな!ここに来て何度目かの頭痛が勇者を襲う。わけがわからないよ!白い魔獣さんは今すぐ帰れください。個人的に、アレの中の人は若本〇夫さんの方が良かったんじゃないかと思う。

「…やはり貴方がたも政府の回し者ということですか。弟達を無視しておいて今更なんのつもりだ!」
「悪いけど、政府とは一切関係ないよ。ただ、鬼と化した付喪神は斬るべきだ。」
「髭切君、お前今の状況理解してる?」

現状:血濡れの付喪神(複数)V.S.激弱イケメンとちくわ装備の元勇者

どうあがいても負け戦じゃねぇかこれ。
勇者は激しくRPG世界終盤の頃の仲間を急募します。
絶望的な現状に勇者は現実逃避を始めるが現実は悠長に待ってくれない。剣戟の音に我に返った時、髭切は近くにいたイケメンに既に切りかかっていた。おいぃぃぃ!?!?
先手必勝とばかりに相手へと迫る刀身は、対応の一歩遅れた相手の腕へと迫り

ペチン。

とても切ない音と共にはじかれた。

「……。」

予想以上の攻撃力の低さに唖然とする一同。最初に我に返ったのは付喪神たちだった。

「どんなに防御しても無駄だよ!!」

決して軽くはない負傷状態でもその技のキレは凄まじい。金色の隻眼はギラギラと獰猛な光を宿し、正に百戦練磨の武士を彷彿させる。彼の渾身の一撃はそのまま防御の為に構えた本体ごと、髭切を両断しようとしていた。

「バッカお前!それアカンやつぅぅぅ!!」

唯一の想定外は勇者も我に返るのが早かったということだろうか。慌てて髭切を救出するために走り出した彼女は現在、自分に武器がない事を十分に理解していた。そして、代わりに武器になりそうなものが"ちくわ"か"ちくわぶ"しかないことも。スーパーの袋から取り出した細長いパッケージを大きく振りかぶり


相手の顔面へと思いっきりたたきつけた。

「ぶっ!?」

たったコンマ数秒の間に繰り出された不意打ちは相手への物理的ダメージこそ低いものの、時間稼ぎには十分だ。刀を構えたままの髭切の腕をつかんで、離れの方向へと勇者たちは逃げた。

「に、逃げたぞ!!追えー!!」





比較的動ける刀剣男士達は同じ方向へと追いかけるが、勇者たちは一向に見つからない。

「…くそ、どこに行きやがった。」
「まさか離れの中に…?」
「一回戻って、他の連中にも話してみよう。」

足音と共に遠ざかる気配。

「……はぁぁぁぁぁ。」

わずかに開けた障子戸の影から様子をうかがっていた勇者は大きな溜息を吐く。
ナンテコッタ。こんな状況じゃ和解は到底無理だろう。やれたとしても一度宣戦布告した相手と和解とか、それ何て難易度ルナティック?勇者はそこまでやる気ないです。

「うーん、驚いたねぇ。」
「そうか。私は君の喧嘩っ早さに驚きを隠せないよ。」

これは早々にクリスタルで撤退をした方が賢明かもしれない。無理な進軍は全滅のフラグでしかない。無理進軍、ダメ、絶対。ポケットから端末を取り出そうとした時だった。

ガサッ。

押入れから微かな音が聞こえた。何かが擦れ合う音に一気に警戒する二人。しかし音のする方向からは一向に何も現れない。このままでは埒が明かないと、止めようとする髭切を制して勇者はゆっくりと押入れを開けた。埃だらけの押入れの中には血痕らしきものがついた布団数枚と何かが転がっている。目を凝らして見てみれば、それはどうも動物のぬいぐるみらしい。

「……?」

警戒しつつも、そのぬいぐるみを押入れから出してみる。歌舞伎役者のように白塗りの顔、閉じてある両目は隈取されている。そして、なにより異質なのは背中に張られた一枚の物々しいお札だった。
呪いのアイテムか何かかこれ。え、どうしよ。触らないで置いておくべきだった?まさかの状態異常になったりしないよね、これ?そういえば、後に悔いると書いて一晩の過ちと読むんだっけ。駄目だ、僕もう疲れてるんだよパトゥラッシュ。

「それ、確か…ころすけ?だったかな。でも何で封印されているんだろう。」
「ころすけ?」
「うん。」

遠くへ逝きかけていた彼女の意識に救いの手を差し出したのは髭切だった。彼曰く、ソレは審神者のフォロー役であり政府との連絡係らしい。しかし、そいつが何故こんな所に封印されているんだ?

「封印…とりま、お札はがしとけばいいの?」
「いや、待っ…あっ。」

呪物に軽々しく手を出さないほうが良いと、髭切が口を開くと同時にお札を思いっきり剥がす勇者。(※決して真似しないでください)何故か粘着力のあるお札は勢いよく剥がされたせいで狐の毛を大量にくっ付けている。

「「……。」」

どうしよう。
だから待ちなよと言おうとしたんだけどな。
もっと早くに言ってよ。

無言のままアイコンタクトを交わす一人と一振り。狐の背中には長方形のハゲが出来ていた。決して声には出さないまま、やいのやいのとお互いに責任を押し付け合っていた時、

…ピクリ

ぬいぐるみの耳が微かに動いた。唐突に動いたそれに勇者と髭切は同時に狐へと目を向ける。

「山城国第参弐〇号本丸確認。審神者の存在、確認できません。こんのすけ、緊急再起動します。……助けてくださり、ありがとうございます!!貴女がここの新しい審神者様ですか!」
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッむぐぅっ!?」
「主うるさいよ。」

いや、でも、狐が、ぬいぐるみが、流暢に喋ってるんだぞ!?おかしくない!?なんでや工藤!?

奴等が近くにいるかもしれないから叫ばないでね、と前置きしてから私の口を抑えていた手を離す髭切君。そういえば、すっかり忘れてた。

「僕がさっき、言ったじゃないか。これはぬいぐるみじゃなくて式神だよって。」
「サポートアイテムとしか言ってないぞ、お前ェ…。」
「ありゃ。」
「私めは審神者様のサポート、および政府や刀剣男士の皆様との連絡係でございます!政府に報告しようとしたところ、封印されてしまい無力なまま、屈辱に耐えるしか無かったのです。助けていただき、誠にありがとうございます!」
「イエイエ、助カッテ良カッタネ。」

現在進行形で新たな屈辱を与えてしまったとは言えない。フリフリと嬉しそうに揺れる尻尾の前には、毛の生えていない皮膚が露出されている。そっと話と一緒に目もそらす。

「それにしても、一体この本丸で何があったんだい?刀剣男士は、皆闇落ちしてるし。多分審神者がいる場所は穢れに浸食され切っているようだけど。」
「おや?髭切様はこの本丸にまだ顕現されていなかったはずでは…。」
「色々あったんだよ。色々。それこそ海より高く、山より深いほどの事情が!」
「主、その例えだと全然浅いと思うよ。」

一歩間違えれば完璧にただの不法侵入者でしかないので、慌ててごまかす。いや、不法侵入者なのは間違ってないんだけどね。ころすけ、とかいう名前の式神は不思議そうに首を傾げた後に説明を続けようとした。

「実は…。」
「おい!こっちから声がするぞ!」
「あのふざけた連中はこっちにいるかもしれないな!」

板の軋む音と共に足音が微かに聞こえる。どうやら悠長にしている暇はないらしい。

「…主。」
「だねぇ。…ころすけ、ちょっとお口チャックな。」
「私はころすけではなくこんのす…ムグッ!」

大声をあげようとした式神の口を押えて強制的に黙らせる。そのまま小脇に抱えて縁側とは反対側の襖へ。極力音を立てないようにしながら私と髭切君は移動を開始した。
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