売店に並ぶ用途不明な道具
第六天魔王が住んでますとでも言いそうな城。その上空を覆うは黒く濁った色の雲。時間という概念すら存在しないような場所に増々ヤンチャしてた時代を思い出す。でも結果的には世界救ってるし、黒歴史じゃないよね?世界が世界なら、中学二年生が発症する病気と間違えられても仕方ない過去にほろりと涙が出そうになる。別に好きでファンタジックな発言してたわけじゃないんだよ。でも後半ノリノリになってたことは否定できない。
自問自答に加えてまさかの自嘲の無限ループ。どうでもいいけど、無限ループって怖いよね。

「一体、ここの審神者は何をしでかしたんだろうね。」
「……うわぁ。」

明後日の方向に飛びかけた意識を戻したのは髭切君の神妙な発言。彼の視線にあるのは小さな庵。中から黒い霧が絶えず零れていなければ、風流という言葉がにあっていただろう建築物。何?新手のお香でも焚いてるの?部屋から溢れ出すとか、どんだけ気合入れて焚いちゃったの?バル〇ンレベルじゃんあれ。頭文字Gとか頭文字Dの虫を除去するタイプだろ、あれ。

「まさかここまで穢れが広がってるとはね…。」
「…けがれ。」

…え、このお香の商品名が「けがれ」なの?「穢れ」なの?いくら何でも前衛的過ぎない?左腕とかに何か封印してる系中学生は喜びそうだけど。いやいや流石に需要が低そうだし、別の漢字だよね。「毛枯れ」とか?除毛クリームならぬ除毛効果のあるお香的な。いや、それもそれで問題ありそうだが…主に頭皮的な意味合いで。それともこの本丸に住んでるのお坊さんなの?剃髪が面倒になって、一気に枯らしてしまえばいいとか思ったの?どんだけ物臭坊主なんだよ。

「…どうしようか、髭切君。さすがに私もあそこに突っ込めないし、君も嫌だろ?」
「うーん…。」

女がこの年でハゲるのは精神的にキツい。スキンヘッドのイケメンも確かにいるが、髭切君がスキンヘッドになってもヤバい。主に私が笑わずに我慢できるかどうかという点で。最低?とっくに自覚してます。

「僕も鬼を切ったことはあるけど、さすがにあれはキツいね…。」

でしょうね。

「仕方ないね。ここは後回しにして、母屋の方へ先に行こうか。鍛刀部屋なら火もあるだろうし、ここよりも遥かにマシだろう。」
「母屋かぁ…まぁ、その部屋よりはマシだろうね。こんな、中に入る奴を選ぶような拠点はちょっと…。」

髪の毛と永遠の別離を覚悟しているような奴じゃないと無理だろ、ここを拠点にするのは。自分の手元にあるスーパーの袋へをチラリと見る。しかし…どうしようか。私、勇者だったけどモンスター相手にちくわやちくわぶで戦ったことは流石にないわ。というか、無謀にも程がある。いっそ髭切君にそこら辺の柱をいい感じに切り取ってくれないかと頼むべきなのだろうか?

「大丈夫だよ。君は一応、僕の主だからね。ちゃんと守るさ。」
「そうか、それなら君の本体を貸してくれないかな?あと、一応って何?」
「じゃあ行こうか。」
「おい、無視すんな。」

主の生命の危機よりも自分のR-18な展開回避をとりやがったぞ、こいつ。……気持ちは分かるけど。なんだか凄くしょっぱい気持ちのまま、再び母屋へと足を進める。途中にヒノキの棒とか落ちてないかな…。



結局、ひのきの棒どころか枝一本すら拾えないまま母屋の方へ来ちゃった訳なのだが…

「うわぁ…」
「これは…」

一目見た時、魔王の城のようだと表現したが訂正する。魔王の城はここまで汚くなかった。所々が抜けた床に血の跡が染みついた壁。障子は紙どころか枠すらも傷だらけの粗大ごみ状態。魔王の城なんか外装はボロボロだったが、城内は埃一つなかったぞ。むしろ下手なホテルよりも快適そうな内装だった。………維持費どうなってたんだろう、アレ。最終決戦で完全に破壊しちゃったんだけど、修繕費はアチラ持ちだよね?

スーパーの袋を提げる丸腰の元勇者は凡その修繕費を計算して頭を抱えたくなった。やべぇ、あれ請求されたら隠居する前に破産してたわ。

付喪神は神の中でも末席たる存在だが、末席であろうと神は神だ。人間の勝手な都合に付き合わせておいて、こんな襤褸屋敷に住ませるとは余程ここの審神者は付喪神たる自分たちを舐めているらしい。とは言え、いくら無礼な目にあったからといって関係のない人間に敵意を向けるのならばそれは付喪神ではなく、最早ただの鬼だ。彼らの為にも、早く斬ってやるべきだろう。

日本刀を提げた戦闘力底辺のイケメンは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の人間や鬼となっただろう同族たちを除かねばならぬと決意した。

二人揃って神妙な面持ちで傷だらけの障子を見つめる。数人分の気配がするそこは静まり返っており、物音一つしない。もしかしなくとも、中に入ろうとした瞬間に罠が発動するというやつだろう。

「…これ、本当にどうしようかな。出来れば穏便に行きたいんだけど。」

先に言っておくが、私は確かに勇者であって拳闘士ではない。剣や武器があれば大概負ける気はしないが徒手空拳となったら話は別だ。精々ドロップキックと当て身で相手の意識を刈るのが限界です。いっそ端末から適当な武器出すか…。

「主はそこにいて。僕が偵察してくるよ。」
「うん?あー…じゃあ、オネガイシマス。」

刀の柄に手を当てたままの彼に少し違和感を覚えるが、まぁいいや。相手が付喪神というやつなら、同じ付喪神の方が向こうも落ち着いて話し合ってくれ…

「鬼だろうが刀だろうが…

斬っちゃうよ?」

「何やってんのお前!?」

視線の先にあるのは、見事な袈裟切りの所為で断面をのぞかせる障子だったモノと呆気にとられた顔のイケメンたち。何人かは部屋の中で倒れている様だが、未だに動ける数名は刀の柄に手を添えている。やはりアレは罠だったのだろう…源氏流お邪魔しますの前に無意味と化したが。激しすぎるデジャブに頭が痛くなった

「ねぇ、何やってんの!?穏便にって言ったよね?勇者めっちゃ穏便にねって言ったよね?」
「うん?1回しか言ってないじゃないか。」
「回数はね!!穏便にって部分だけアクセント強めにしてたから!!」
「あくせんと?」
「なんてこった、言語の壁が厚過ぎるよ!!」

見ろよ、向こうさんの顔を。殺ってやる!って構えてたらその前に障子が切られてめっちゃビックリしてるから。あのガテン系のイケメンなんか「こんな時、どういう顔したらいいのか分からないの。」って言いたげな表情だから。
ごめんね、もう笑っとけばいいんじゃないかな。

「…こいつは驚いたな。まさか、今更政府の連中が来るとは。あの人間を引き取りに来たのかい?あの穢れきった人間一人の為に重い腰を上げるとはご苦労なことだ。」

何で刀剣男士は無駄に顔面偏差値が高いのだろう。白黒反転した瞳は金色の瞳孔が開き切ってる。ヴィジュアル系でも目指してるんです?

「いや、落ち着きましょう。多分あなた方は誤解して…。」

とりあえず、穏便に話し合いをしようと再び試みる。障子切っちゃったのは謝るから、落ち着こうぜ?しかし現実は無常というか、私の健気な申し出に対してファンキーな髪色の青年が叫ぶ。やはり彼の目も白黒反転し、瞳孔は赤く爛々と光っている。この本丸はカラコンが義務なんですか?

「貴方たちが来るまでに、一体何振りの弟達が折られたのかご存知か!?短刀だからと、脇差だからと折られた弟たちの苦しみが!!歴史修正主義者を倒すために我らは力を貸したというのに、それに対する仕打ちがこれだと言うのか!ならば人間など滅びてしまえ!」

何でイケメンって人の話聞かねぇの?

「いや、だから落ち着いて話し合お…」
「無理だよ、主。もう彼らは堕ちてしまってる。救えない。」
「なぁ、髭切。頼むから主にも分かるように説明して?勇者にヴィジュアル系の翻訳機能はついてないの。」

とはいえ、ある程度は宗三君の説明で理解してる。あれだろ?黒歴史を消したくなって、行動に移しちゃってる奴等。んで、ブラック本丸っていうのが、歴史修正主義者を倒すために召還した刀剣男士をこき使ってる奴等。

…ん?

もしかしてここって宗三の言ってたブラック本丸?
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