村人の子供は反抗期
髭切―――名をつけた奴のネーミングセンスを真面目に疑いたくなった――ーというDQNもビックリな名前の刀剣を顕現してから早2週間。
クルマサカオウムの自己紹介の所為で抱かれてたヤバい誤解は何とか解けたらしいけど、好感度が一気に急上昇したわけでもないらしい。私に振られてお色気ムンムンな宗三を見てから、彼の刀を振ろうとするたびに上手く交わしているのが良い証拠だ。いや、別にいいんだけどね?その分スライムを倒して経験値を必死で稼ぐ彼に何とも言えない気分になった。
喘いで一気に強くなるか、苦労してゆっくり強くなるか。クソ過ぎる選択は、下手しなくても男の沽券にも関わるのだろう。正直すまないとは思ってる。

「そこんところ自称本妻さんはどう思うよ。」
「放っておけばいいんじゃないですか?」
「やっぱあの後ちょっと吹っ飛んじゃったのがいけなかったのかな。」
「ああ…あの時の貴女は興奮してましたしね…凄かった…。」
「あの、否定はしないけどその無駄な人妻感どうにかならない?」

顕現した初日に我が家のストレス発散システムを見せるために地下室に連れて行ったのだが、どうもその時に見せた光景がヤバかったらしい。まぁ、正面はR-18G、隣はR-18ですからね!逃げ場のない18禁祭り。いや、悪意はないんやで?

「彼も彼です。…いつまでも変な意地を張らずに一発やられてしまえば、いいのに。」
「多分原因の半分はお前だぞ宗三君。」

言っておくが彼の言う一発はモンスター狩りの事だ。決してやましい意味はない。だから、おまわりさんこっちじゃないです。

「とはいえ、いつまでもこの状態だとあの程度のモンスター1体倒すにもどれだけの時間がかかるか分からないし…。私、武器は出来るだけ直ぐ強化するタイプだから見ててイライラすんだよなぁ…。」
「いっそ1回話し合ってみたらどうですか?最悪、奪い取って振るってしまえば良いですし。」
「それ絶対に後で空気がギスギスするやつじゃん。まぁ、いいや…一回話し合ってみるよ。」

何で私は付喪神と一緒に、反抗期迎えた息子に頭を悩ませる夫婦みたいな会話してるんだろう。結局、半ば無理矢理に髭切君を外に連れ出したのが1時間前。


現在。

「なぁ、髭切君。」
「…何かな?」
「あのさ、間違ってたら躊躇せずに否定して欲しいんだけどさ。
………ここっていわゆる宗三君の言う、本丸ってやつ?」
「うーん…残念だけど、あってると思うよ。」

目の前にそびえ立つ、本来なら重要文化財待ったなしだろう立派な城はしかしながら所々に穴が開き、瓦も剥げている。何よりも天気予報に依れば降水確率0%の筈なのに、空を覆う黒い雲。あ、何か魔王の城思い出したわ。

「え、ちょ、どうする?私、ちくわしか持ってないよ!?」
「むしろ何でちくわだけ死守しちゃったの?」

手に下げたレジ袋に入っているのはちくわとちくわぶ。今夜の晩御飯はおでんの予定でした。背後を振り返るが、通ってきたはずのコンクリートの道は跡形もない。代わりにあるのは彼岸花とやけに流れの速い川。…これ、間違って三途リバーに来ちゃったってオチじゃないよね?

「とりあえず、後ろの川は渡ったら色々とヤバそうだから本丸にお邪魔してみる?もしかしたら家に帰る方法あるかもしれないし。」
「うーん…僕としては気が乗らないけど、そうするしかないだろうねぇ…。」

本当はポケットの中に端末が入っているので帰ろうと思えば帰れるけど、折角腹を割って話し合えるような状況なんだ。ある程度の話がついたあたりで帰ればいいだろ。
門をノックしようとした時だった。

「きえああああああッ!」

鼻先を撫でるような風と共に目の前の扉が崩れ落ちる。
…は?

「…うん。じゃあ、行こうか。」
「いや、じゃあ行こうかじゃないからね。いきなり門をたたき切るのが源氏流のノックなの?それどんなダイナミックお邪魔します!?」

さも当然といった涼しい表情のまま、敷地内へと一歩踏み出そうとした彼に慌てて声をかける。ヤバい、こいつ常識人かと思ったら一本どころか10本くらいネジが吹っ飛んでたわ。
…とはいえ壊してしまったものは仕方ない。幸いにも金はあるので弁償して謝罪すれば多分なんとかなるだろ。防犯対策なのか砂利が敷かれた敷地内を髭切君に続いて屋敷の母屋へと向かおうと足を進める。殆ど廃墟と化していても、純和風の屋敷というのは欧州に近い造りの家ばかり見てきた私には珍しいもので、キョロキョロと辺りを見回してしまう。結果、辛うじて畑だと分かるそのスペースに自生する、見慣れたモノを見つけてしまった。

「……あのさ、本丸って魔術師やそういった類の住処だったりする?」
「え?うーん…魔術師が何かは知らないけど陰陽師が審神者をする場合は良くあるって聞いたことがあったかなぁ…」
「いや、陰陽師じゃ無理だろ。アレ」

私が指差したその先。畝のような部分から生えた青い葉は一見すると大根の様に見えるが、肝心の根幹の部分は人参の色。何よりも…

「人参じゃないのかい?」
「その下の部分、見てみ。」
「…!?」

訝しげな表情のまま目を細めた髭切にも、見えたのだろう。無駄に整ったその顔を引きつらせている。うーむ、そろそろ予想外の事態にも慣れてほしいものだ。例えそれが彼にとっては超常的なものだとしても。
根幹の中央に当たる部分には引き裂かれたような大きな一本の線。その両端の少し上の部分にある一対の泥の様な濁った瞳。どうみてもマンドレイクです、本当にありがとうございました。

「あれ、新種の犬神か何かかい…?」
「いや、一応植物。ただ、引っこ抜く時に奴があげる悲鳴が一撃必殺の呪いなだけ。」
「うーん…僕達、かなり厄介な場所に来ちゃったみたいだねぇ…。」

この時、困ったように笑う新入り君の言葉に耳を傾けておけばよかったと後々後悔するなんて思ってもみなかったんだ。むしろ懐かしい物を見つけてしまい、テンションが上がっていた私は当初の目的を忘れていた。

================
マンドレイク。
半動半植物。根幹も葉も貴重な薬の原材料だが、何分取り扱いを間違えると即死のアイテム。入手した数によって称号を得られる。
勇者たちが最終時点で獲得した称号は"Mandrake may cry"
_13/17
しおりを挟む
PREV LIST NEXT