若者よレベルをあげろ
「話をまとめるとだ、君は刀剣の付喪神で?黒歴史を消そうとする勢いだけで生きているパーリィピーポーを討伐するために擬人化されたと。」
「"ぱーりーぴーぽー"が何かはよく分かりませんが、まぁ大体あっているのでしょうね。」
「そんでもって戦おうと思って呼びかけに答えてやったら、雇い主がゲロ以下の野郎だったと。」
「ええ、兄弟が顕現されてなかったのは幸いでした。もし目の前で折られていたら僕は怨霊になってたでしょうし。」
「籠の鳥から怨霊にとか、ある意味二階級特進じゃねぇの?戦闘力的には。」
「たかだか人間の為に神格を失う意味が分かりませんね。第一、忌々しいことですが本丸は審神者の領域…相打ち覚悟で挑まないとダメですし。」

余程その領域の雇用者に対するバックアップが凄いのか、それともただ単に目の前の青年が弱いのか。藪蛇になったら面倒なので敢えて言わないが、その本丸とやらで雇用者と戦ったら面白いのかなぁなんて思う。あ、これ絶対戦闘民族の思考だから無しで。か弱い乙女たる勇者様はこんな時「ふぇえ、怖いよぅ><」とか思うべきなんだ。自分で考えてて吐き気がしてきた。

「…そんで?何でその本丸からあんなゴミ捨て場に?夢遊病なの?方向音痴なの?」
「ぶっ飛ばしますよ。出陣中に変な空間に巻き込まれたんです。…僕はドロップしやすい刀ですから、どうせ元の本丸には新しい宋三左文字がいるでしょうね。」

遣る瀬無さそうな自嘲の笑みを浮かべるフラミン…宗三君。にわかには信じがたいがまぁ、そういう事もあるんだろきっと。門外漢の私にはご愁傷さまでーす位にしか思えない。だが、まぁ今は生活用品集める以外暇だし、少しだけ手を貸してやってもいいだろう。暇つぶ…やることないし。

「そんな家なき子にジョブチェンジしてしまった宗三君に、心優しい勇者からの救いの手です。」
「…心優しい?どうやら僕はまだ疲れてるみたいですね。幻聴が…。」
「ぶっ潰すぞお前。どうせ行く場所無いなら我が家に住ませてあげよう。
一日三食、昼寝付き、戦闘訓練も多少なら付き合ってやれる。但し家事は手伝え。
そんでもって、弱いと自覚しているのならレベルをあげて物理で完膚なきまでに潰せ。」
「まるで猿の様な単純思考ですね。たかだか人間の貴方が…僕の戦闘訓練に付き合うつもりですか?それに、こんな狭い家の何処でやるというのです。」
「その人間に夜襲して倍返しにされたのは何処の付喪神だ。あと狭い言うな、現代基準だと十分にデカいから。ほら、ついて来い。刀は返すから。」

飲みかけの珈琲はそのままに持っていた刀を投げ渡す。慌てて受け取った宗三は刀を見て唖然としていたが、何か言ってくる前に私がキッチンを出て地下室へと向かう。宗三君が私に追いついた頃には件の地下室の前だった。

「…貴女、余程の馬鹿か自意識過剰なんですね。僕が後ろから刀で切りつけてくるとは思わなかったんですか?」
「言ってろ未亡人。それより場所があるかどうかでしょう。ほれ、こんだけありゃ十分だろ。」

扉を開いて中へと入る。相変わらず驚きの白一色の部屋では、昨日の暇つぶしで付いた筈の傷さえ目立たない。

「…こんな場所が。」

唖然と室内を見渡す彼を横目にデバイスを弄る。取り出したは一本の刀。魔王退治前にお役御免となってしまったソレは久しぶりなのにひどく手に馴染む。

「宗三君、とりあえず一回手合わせして見る?その後で色々考えた方が早い。」
「正気ですか。」

どうやら余程自分の腕に自信があるらしい。これは気を引き締めてかかるべきかと少しだけ期待をする。モンスターを倒すのも爽快っちゃ爽快だが、あれは化け物退治の延長でしかない。やはり一番は俺より強いやつを探しに行くというあの高揚感だよね。殺意の波動に目覚めるのも時間の問題だな。ツッコミ役だった魔術師の声が聞こえた気がした。
刀を構え、正面に立つ青年に口角が自然と上がっていく。
多分、私が生まれた世界で聞いただろうフレーズが思い浮かんだ。

RPG世界は貴女の大切なものを盗んでいきました。
それは

「来いよ宗三君。殺すつもりでいいからさ。」


死への恐怖です

どうせもう手遅れだけど
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