「オエーまっっず!」の一言とともに皿+料理が宙を舞った。
その皿+料理の行き先はオレの顔面で、不幸なことに一般的な反射神経しか持ち合わせていないオレは、やけにスローモーションで迫り来る皿+料理に目を剥いて――次の瞬間モロに顔面に受けた。
べしゃり…ずる…がーしゃん!
マンガみたいな音が屋内に虚しく響いて、そしてドロドロに汚れたオレの顔を見てトミーロッド様は腹を抱えて爆笑した。
「トミーロッド様…」
オレは、もうどうしたら良いかわからなくて、とりあえずトミーロッド様の名前を呼んでみた。
そうしたら、トミーロッド様は笑い過ぎて出た涙を拭いながら「なんだい、苗字?」なんてしらばっくれている。
声の調子、雰囲気からは悪びれている様子が微塵も見られない。
オレ的には料理を無駄にするなとか、食材が勿体ないとか色々苦言を呈したいのだが、何しろオレは美食會におけるヒエラルキーの最下層とも言える雇われ雑用係だ。
そんなオレからしたら超上司にあたるトミーロッド様に上の文句を垂れたら、その場で文字通り“首を飛ばされる”に違いない。
というか、最近ずっと疑問に思っているのだが、トミーロッド様はなぜ、美食會のヒエラルキーの最下層とも言える雇われ雑用係のオレの料理を食べたがるのだろうか。
オレは雑用係であって料理人でも何でもない。
一人暮らしの経験からある程度の料理は作れるが、それでも料理人には足元にも及ばない。
それなのに、トミーロッド様は暇が出来ると(オレが忙しいのは無視)やれオヤツを作れだのやれ夜食を作れだの無茶を要求する。
はっきり言って迷惑極まりないのだが…トミーロッド様の命令には逆らえない。
畜生この、縦社会め!
オレは心中で毒づきながらかがんで後片付けをし始めた…とオレを被う影一つ。
トミーロッド様がいつの間にかオレの眼前に立っていた。
そうしてそっとしゃがんでオレの顔をじーっと見る。
しまったまだ顔ドロドロだった!
「……ナンデショウカ」
至近距離でまじまじと見られると居心地が悪い。声も姿勢も自然と硬くなる。
「トミーロッド様?」
「苗字の料理ってさぁ、味もフツーだし不味いんだよねぇ」
「…申し訳ありません」
味が普通なら不味くねぇじゃん!と言いたいのをオレはぐっと我慢した。
「見た目もフツーだし、もう飽きちゃった」
「はぁ…」
トミーロッド様はいったい何が言いたいのだろう。
皆目見当のつかないオレは曖昧にうなずいた。
「だからさぁ…今度は苗字を食べさせてよ」
「はい……って、ぇえ!?」
トミーロッド様のトンデモ発言に一瞬了承しかけてオレは、びっくりした。
トミーロッド様、今何を言ったんだ?オレを食べる?
オレを食べるとは何だ、トミーロッド様はカニバリズムの気でもあるのか!?
「え?トミーロッド様……え?」
「それじゃイタダキマス」
混乱中のオレを見て、トミーロッド様はまた大笑いして、そうしてオレの頬っぺたに噛み付いた。
prev next
bkm