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猫背気味の彼


よう、と手を上げ姿を現した名前にゼブラは盛大なしかめっ面で迎えた。


「メロウコーラは美味かったか? 俺も随分昔に口にしたが……って、おいこらクソガキ。話も聞かずに通り過ぎようとするんじゃねえ」
「まだ生きてたかよクソジジイ……、イテェな掴むんじゃねえよ!」

耳朶を力いっぱい引っ張り、そのまま足を払って尻を着かせようと考えた所で避けられる。おや、と瞬いて甥の確かな成長にほんの少しだけ唇が持ち上がった。

ゼブラの叔父というだけあって名前はかなりの実力者だ。また、そうであるとも自負している。

昔ならここで尻もちを着いて胸に足を上げて高笑いしていた所だな、と過去を思い益々笑みが深くなる名前。
無様な姿に笑う事が叔父としての楽しみの一つであったが、まあ良い。
超聴覚によって此方の接近を知っておきながら避けなくなったのも成長の証と言えようか。

「しかしつまらん。俺よりも大層デカくなりやがって」
「チョーシに乗りやがって……オレはテメエの正直過ぎる行動が嫌いなんだよ」
「ガキの成長を喜ばしいと思ってんだよ。それに、喧嘩は好きだろ?」
「テメエのは喧嘩じゃねえ」
「そうかそうか。家族のじゃれあいだもんなあ」
「チッ……、テメエと居るとチョーシ狂うぜ……」
「コーラ買ってやるから拗ねんなよ」

頭二つ分も高いボサボサの頭を顔の前で固定しぐしゃぐしゃに撫ぜると、グルルッ、喉が獣の威嚇に似た音で唸る。
しかし払われる事はなく。
諦めたのかはたまた気まぐれか、甥の我慢の限界まで久方ぶりの再開を名前は堪能した。
例え嫌がられていようとも、この叔父は楽しければそれで良いのであるらしい。
猫背の叔父に合わせ円背となったゼブラは、傍目から見れば微笑ましく見えない事は無い。……かもしれない。


「500人の指名手配犯確保と100種の新種食材発見」

名前の手が不意に止まり呟いた言葉に、ピクリと人型の耳が反応する。

「お前には何て事無いだろうが、俺も少し暇をしていてね」
「……何処から嗅ぎつけて来やがった」
「一龍会長から直接。くくっ、一カ所に留まらねえ俺を良く見つけたと思うぜ。ご苦労なこったあ。……この俺に監視役でもさせようって腹かねえ」

歩くグルメ神社。
こんなふざけた御大層な名を勝手に付けられた名前は、共に居る者に最凶で最高の食材への巡り合わせを与えるとされている。
それに伴う危険はその者の実力に比例しないが。

「ハニープリズンで随分力を付けてきたんだろ? 見せろよ。俺にその実力を」

挑発的な視線。
まさか付いてくるつもりか、とゼブラの凶悪と言って良い相貌が顰められた。甥と同質の赤い長髪の間からにいっと楽しそうな口元が覗き、瞳の奥がキラリと光る。
造作は全くと言って共通点の見受けられない二人だが、獲物を前にした時の顔付はそっくりだ。
これは確実に楽しんでいる。

「……勝手にしろ」

そう一言呟き何時までも頭を掴む手を払ったゼブラ。この叔父と居る事で獲物の手応えが格段に跳ね上がることは間違いない。
名前はそれに怒るでもなく、鼻歌を歌い上機嫌で隣に並び歩きだした。

顔を背ける甥は名前の声を聞く時だけ少しばかり猫背になり、道行く人々の視線を集めていた。
微笑ましい光景に見えて……いる訳がない。




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