劣情パピヨン


頭を預けた身体、ゆらゆら揺れる。
多分、揺り籠に似たカンジ、なんだと思う。
そんなの覚えてないけど。
……ん?
じゃあ、オレ今アンタの子供?
……それも悪くは、ないんだけどさ。
視界いっぱい、深紅の天鵞絨。
その端、深く入ったスリットから、ちらちら、やわらかそうな白い肌が覗く。
呪いが施された、静脈の透ける皮膚。
きっと滑らかで、気持ち良くて、いい匂い。

……触って、みたい。

むらむら燻る、小さな熱情。
色の抜けた髪をあやしてくれる手は、今、やさしいから。
怒られないんじゃないか、なんて。
そんな妄想、ダメですか。

「良い訳ないでしょう」

降り注ぐのは、呆れ返った魔女の吐息。
撫で続けていた手が離れていく、名残惜しい。
見上げた魔女の、艶やかな唇。
呆れて尚、笑みの形は崩れない。

「可愛い子犬でいて頂戴」
「…………わん」

ヒトですらないのかよ。
膨れる頬を、楽しそうにつつく尖った指先。
細められる金色の瞳、ゆるやかな赤い唇、大人の余裕。

その笑い方、好きだ。
……崩して、みたくなる。

「…あのさぁ、アルティミシア」
「なにかしら?」

身を起こし、ティーダはアルティミシアの肩を掴む。
天鵞絨と羽根に守られた細い、華奢な、肩。
僅かに開いた瞳の金色が揺れる。
余裕だけだった今までと、ほんの少しだけ違う色。

……それもいいな、もっと見せろよ。

寄せられた柳眉は、無視決定。
ぐい、と押せば、魔女の肢体は予想以上に簡単に倒れる。
倒れた先はやわらかい寝台、ありがとうございます。

「……何のつもり?」
「ん〜?」

組み敷かれたアルティミシアの視線、今度は細めた、冷たい金色。
見つめるティーダは、熱に浮かれて海色を揺らす。

「だってなんか、そんな気分」

恋とか愛、とは違う気がする。
大人の女への憧れなのか、単純にむらむらしちゃっただけなのか、正直良くわからないけど。
そんなの、どうだっていい。
好き、触りたい、それでいいじゃん?
…そう思っちゃったからには止まりません。
最後まで、突っ走りたい。
覆い被さるティーダを見上げ、静かに伏せられる魔女の瞳。
…あ、睫毛長い。
美人、て言うか、可愛い気がする。
あれ?
時間を止められたのかと思う程に長い沈黙。
やがて現れた瞳は、やわらかな金色。
ちょっとだけ期待して、ティーダはせいいっぱい、可愛らしく笑って見せる。
赤い唇から漏れるのは呆れと諦め、けれど浮かべているのは、笑み。

「……坊やに、私を愉しませる事が出来るかしら?」
「……それはお楽しみってコトで!」

あどけない笑みから一変、ぎらり光る、海色の瞳。
金色の瞳を熱心に見つめるそれは、子犬じゃなくて、立派な雄。

「…覚悟、するッスよ!」

首元に埋めた頬をくすぐる、さらさら、冷たい銀の波。
吸い込んだ香りはほら、くらくら。
妖しく、甘い、女の香り。
……イタダキマス。
頭の中で、呟いて。
狙いを定めた真白の犬歯は、透けた皮膚にがぶり、噛み付いた。






writer みたそ






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