あふたーおーる
違和感は感じていたのだ。それはもう肌に突き刺さるようにひしひしと。
今まさに、暴君として名高い皇帝はその違和感の根源たるものに直面していた。
何だ、何が起こっているというのだ。その聡明さゆえか頭の中にはいくつもの仮定が浮かんでは消え去ってゆく。が、終いにはまっしろになってしまった。いやだって、あり得ない。
良く言えば自由奔放、悪く言えば得手勝手な混沌の軍勢に代わって今日も一人、イミテーションを引き連れてやかましい秩序勢と刃を交えてきた。それ以前にも準備だの作戦だの何だのに時間を割かれ、この混沌の果ての地に足を運ぶのはもはや5日ぶり。といっても彼は神であるので時間の概念は無いのかもしれないが。
それでも恋い焦がれていたのだ。身を焼かれるような寂しさにも耐えきり、疲れた身体を引きずって愛しい恋人のもとに来てみれば、いつもならひとり優雅に玉座に座し出迎えてくれるはずの彼―カオスの姿はなかった。
少し語弊が生じるので姿はあったと言っておこう。ひとりで待っていてはくれなかったといったほうが正しい。なんとそこには、皇帝の自分の思い通りに動かなくて腹が立つものベスト3には余裕でランクインする混沌の軍勢が揃いも揃って全員集合していたのだ。皇帝が冒頭のような状態になるのも無理はない。想像できるだろうか、委員長がいくら注意しようと聞く耳をまるで持たないやんちゃ生徒たちがある朝いきなり素直に従うようになった、そんな何とも言えない感覚である。
全員揃っているだけならまだ可能性はあるようなものの、彼らはあろうことかみな思い思いのやり方でカオスと親交を深めていたのだ。
急にどうしたというのだ。なんだこの人口密度。違うな、人である者のほうが圧倒的に少ないのだから魔物密度?まあどうだっていい。とりあえず手近にいたジェクトに問うてみる。
「おい…これはどういうことだ」
「帰ってきてたのか、あー…」
癖なのか頭を掻きながらやけに間延びした声で彼が答えたことには、
「あいつらカオスがお前に独り占めされてるのが気にくわねえんだとよ」
ま、だからお前さんへの当てつけっつうことじゃあねえの?ふぁーぁ、と欠伸を隠そうともしない彼を苦虫を噛み潰すどころか存分に咀嚼したような顔で一瞥する。美形が台無しである。ちょっと待て、貴様ら普段は召集かけても無視するだろう。奇跡的に一度だけ全員が集まった時があったが、そのために私が、この私がどれだけ苦労したと思ってるんだ。
文句のひとつでも言ってやろうとカオスの回りをふわふわと浮遊しつづけている女性陣、もとい暗闇の雲とアルティミシアに近づく。
「あなたいつもカオスに構ってもらってるじゃない、少しの間くらいいいでしょう?」
横目であしわられながらの返答がこれだ。これが別の日なら万に一つも許してやったものを、どうしてよりによって今日なんだ。もしかして狙ってやったのか?
そもそも私はカオスの恋人だ。二人きりで過ごす権利くらいあって当然だろうが。考えれば考えるほど正論である。
皇帝が悶々としている間にも、ガーランド、ゴルベーザ、エクスデスの鎧三人組は和気藹々とカオスと談笑を続け、その肩に座って愛刀を手入れしているセフィロス(宿敵にしか興味ないんじゃなかったのか)、それにちょっかいを出すケフカ(破壊にしか興味以下略)、とまさに混沌である。
「カオス…なぜ」
潤んだ目できっ、と彼を睨みつける。この件に関してカオスが責められなければならない点は何も無いのだが致し方ない。
「すまない…みな皇帝をねぎらいたいと申していたから大勢のほうが楽しいかと思って」
迷惑だったか?と申し訳なさそうに目を伏せる仕草に意図せずとも頬が染まる。
なにこの神様超可愛い。と同時にこんなにも純粋なカオスをたぶらかした奴らが許せない。怒りは体の震えとなって皇帝のその身にあらわれていた。
「なんだ、泣いておるのか?」
「少しやり過ぎたかしら」
「そんなことはないだろう、蛇たちも喜んでおるぞ」
ほれ、と暗闇の雲が触手を近づけてくる。うつむいていた頬をちろちろくすぐりながら笑っているようにも見えるその顔を見て、たまりにたまった疲れがどっと吹き出してきた。先程の怒りにも勝るようで、震えがおさまっていくのが分かる。身体とは素直なものだ。もう帰ろう、頭が痛い。これは夢なのだきっと。カオスとはまた後日時間をとることにする。パンデモニウム、懐かしき我が家よ。すぐに行く。
「…帰る…」
「なんだい、これからが面白いところなのに」
ぶうっと口を尖らせて言うクジャにもう何を言い返す気力もない。
「ふむ、そうか。ならば華々しく宴の終幕を飾るとしよう」
そう言い放った暗闇の雲がとったのは攻撃の姿勢で、いきなりの彼女の行動に後ろを向いてとぼとぼと歩き去っていく皇帝以外は身構えた。
「あ、あの…雲、いったい何を?」
「あぁ、コスモスのバッツとかいう若造に"混沌の果てで乱打式波動砲打ってみ?
面白いことになるぞ!"と教えをもらったものでな、一度試そうと思っていたところだ」
丁度いい、と彼女はすぐに発動させる気まんまんである。頼むよバッツ。好奇に輝く彼女の瞳を見て冷や汗を足らしながら彼らが思ったことはおそらくこれに一致していたであろう。カオスへの別れの言葉もほどほどに、次々に紫雲の闇へと逃げ去っていく仲間達に暗闇の雲は気づく様子もない。
「なんだ、騒がしいな…」
「破壊の限りを!」
「ウ…ウボァァァァ!!」
彼が振り向き様に目にしたのはとてもいい笑顔の暗闇の雲と迫り来る波動だけであった。哀れ皇帝、彼の個性的すぎる断末魔はコスモスの聖域まで響き渡ったという。(ティーダ談)
「む…なんだ、みないないではないか」
一連の騒ぎをを起こした張本人は至って呑気につまらん、を繰り返して去っていった。これがバッツの言うところの"面白いこと"なのかは不明である。後に残されたのは未だに何が起きたのかよく分かっていないカオスと身も心もぼろぼろの皇帝。はっと我に返ったのか、カオスはそっと恋人を抱き上げる。
「だ…大丈夫か」
「あいつら…覚えていろ…必ずいんせきぶつけてやる…」
怨念のたっぷりつまった言葉を最後に気を失ってしまった皇帝を抱え、困ったような表情をその顔に浮かべた後、彼は最強の召喚獣を呼んだ。
「私は癒しの力を持っていない…どうにかしてやってくれ、神竜」
『知るか。せいぜい手厚く看病してやることだな』
そんなことでいちいち呼び出すなと言わんばかりの溜め息を吐いて、神竜はその場から瞬く間に消え去った。なんともな召喚獣である。
結局皇帝はそれからつきっきりでカオスのかいがいしい看病を受け、思いっきり二人だけの時間を楽しんだのだから結果オーライということになるのかもしれない。
writer 翼
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皇帝×カオスはヘタレ攻め×天然受けだと考えています翼です。ここまでお読みいただきありがとうございました。カオスはじめみんなの口調が見事にブレイクしましたがこんなカオス陣もありかな、程度に見てやってください。そして図らずも入ってしまったバツ雲要素に自分でもびっくりです(笑)
アンソロジー、参加させていただき本当にありがとうございました!コスモスもカオスもみんな含めてディシディア大好きだー!