感情的憐憫
嗚呼、アア、なァんて素敵な青空なんでしょう。
青い空に揺らめく白い雲。青々とした草木たち。
なんて、なんて。
素敵すぎてムシズが走りますよ。
ホラ、今にもよーいドンで走り出しそうでしょう?
醜悪な笑みを浮かべながら、ケフカは流れるように語った。
彼の周りには青々と茂る草木と、青い鎧を纏った樹木だけ。
樹木は笑う。
「ならば、壊せばよかろう」
いずれ、全て無に還る。
嫌に上機嫌なエクスデスに、ケフカはありえないと肩をすくめる。
大袈裟な仕種はひどく人工的だった。
「オマエの壊すとボクチンの壊すは違うんだよ」
「同じだ。どのみち何もなくなる」
うるさい。
うるさい、うるさい。
樹木は樹木らしく何も言わずにそこらへんで光合成でもしていればいいんだ。
ああ、でもそんな鎧を着込んでちゃあ日光が葉緑体まで届きませんよ。
酸素を生み出さないような植物は用ナシです。
他の誰かさんに斬り倒される前に燃やして差し上げましょう。
放たれたファイガはトリッキーな動きをしながらも、そこに佇む樹木に向かって
いく。
それを見ながらも、エクスデスは悠然とそこに佇んでいた。
「早く逃げないと、真っ黒コゲになっちゃうじょ?」
いいのかな?いいのかな!
愉快だと言わんばかりに笑うケフカに、エクスデスは嘆息する。
憐れだ。
彼が一番嫌いそうな言葉だった。
「あわれぇ?どぉしてぇそうなるんですかぁ?」
ボクチンはこぉんなに楽しく人生を謳歌しているのに!
ぐるりと空中で一回転して、ケフカは尋ねる。
芝居のようなそれに、エクスデスはガシャリと無機質な音をたてるだけだった。
面白くないな、とケフカは言う。
ああ、でも。
呟きと共に、への字に曲がっていた唇が一気に反転した。
恐ろしいほど醜悪な、しかしなぜか可愛らしい様だった。
「大好きですよ、そういうの」
憐れめば、同情すれば。
そうすれば、きっと誰かを救えるはずだと言う偽善。
吐き気がするくらい大好きです。
感情の抜け落ちた顔でケフカは言った。
いままでとは一変した空気。
沈黙?
静寂?
どれも違う気がする。
しかし、初めて訪れた無音の空間はどこか愛しくて。
「…可笑しな道化だな」
理解できない。
呟かれた言葉に、ケフカは笑った。
「当り前ですよ。…オマエはただの木なんだから」
ヒトの感情なんて、わからないに決まってるでしょう。
何をわかりきったことを言うんですか。
静かに笑い続ける彼を、エクスデスは物珍しげに見つめた。
先ほどまでの品のない笑い声はどこへ言ったのか。
「ねぇ、エクスデス」
とん、と軽やかにケフカが地面に降りる。
そのまま弾むように近づいてきて、にたりと唇で弧を描いた。
ぞくりと這いあがる何か。
悪寒のようでそうではない、不思議なそれは、エクスデスを挑発するようで。
「ワタシたちは、なんてアワレなんでしょうね?」
けたけたと響き渡る彼の笑い声。
品をなくしたそれに、エクスデスは嘆かわしく首を振る。
ゆったりとした動作でケフカに近づき、その頬を捉えた。
「……なんですか」
言葉の裏に隠された拒絶に気づかないフリをして、エクスデスは化粧の塗りたく
られた頬を擦るように撫でる。
「………、」
囁いた言葉を、道化は嘲笑った。
「ばかみたい」
樹木のくせに、ヒトに焦がれるなんて。
writer のん