微笑みに色を
クラウド・ストライフ21歳。独り溜息を付きながら歩いていた。
きっかけは自分が装備できるある特殊な装備品のセットを手に入れた事だった。
それは『蜂蜜の色香』。
周りからは「どうしてお前が装備できるんだ?」と投げ掛けられている視線を浴びせられたのは言うまでもない。
元の世界でそう言った事をせざるをえなくなったからした事が、まさかこの世界でも反映されるとは思ってもいなかった。
ああ女装出来ますよ因みにやり方に次第じゃ夜の相手に選ばれるくらい完成度高いのが出来ますよ文句あるかチクショウ。
「どうかしましたか?クラウド」
そんな事を考えていた最中、突然掛けられた声にクラウドは意識を戻す。
「………コスモス」
気付けば聖域にまで戻ってきていて(イミテーションに遭遇しなかったのはある種の奇跡か、はたまた憂鬱な気がイミテーション避
けになったのか)、女神の台座近くまで来ていた。
勿論声を掛けて来たのも秩序の女神、コスモス。
「浮かない顔をしていましたよ?」
彼女のその儚げで整った顔は病的に蒼白で、その微笑みも何処かやつれていた。
「……ああ、下らない事だ。気にしなくていい」
本当に下らないこんな事で彼女を心配させていたら、かの光の戦士からEXモードの状態でバウンズバックラーからのエンドオール、そしてEXバーストされかねない。
「そうですか…ならば良いのですが」
彼女は眼を伏せてから澄んだ声で言う。
「……アンタこそ顔色が悪い」
本来ならば「大丈夫か?」とか「無理をするな」とかを言うのだろうが、彼女にそれを言える訳がなかった。
彼女は今、自分達の為に世界を支えている。
大丈夫な事などないし、無理をしなければ成り立たない状況なのだ。
「私は大丈夫。……ひずみの数も減っている様だから、少しは楽になりました。皆のおかげです」
そのやつれた顔に更に笑みを見せる女神。
胸が、チクリと痛んだ。
本当ならばその笑みはもっと柔らかくて明るく、鮮やかで素敵なものの筈なのに。
そう、色がないのだ。
白過ぎる。
「コスモス」
ならば。
「化粧をしてみないか?」
色を添えてやればいい。
秩序の女神はその突拍子もない言葉に目を瞬かせていた。
――――――――――
肌自体は綺麗だからパウダーを肌全体に軽く馴染ませ、睫毛はびっくりするくらい長いからそれを生かしてビューラで綺麗に上へと持ち上げてからマスカラだけにするとして、アイブロウを施してからアイシャドウとアイラインを乗せていき、頬にチークを乗せて口紅を引くだけで良いだろう。
色は淡いピンク辺りが良いだろう。それで統一して薄く乗せて自然な感じに仕上げていく。
今回はとにかく顔色をよく見せて本来の彼女になる事を目指している。あまり濃くすると目的から逸れるし化粧だけが浮いてしまう。それだけは避けたい事態だ。
どうして化粧品持っているかって?……そこは聞かないでくれ。
「よし、後は唇だけだな」
今までの工程は我ながら完璧。クラウドは口紅を紅筆に付けながらそう言う。
口紅はリップクリームみたいに直に塗るよりも紅筆を使った方が綺麗な唇の形が描ける。
「コスモス、「え」を言う時の口の形を作ってくれ」
「…こう、ですか?」
コスモスは「え」の口の形で止める。
「それでいい」
クラウドはその下唇に筆を滑らせる。
縁をなぞって、中を塗る。出来るだけムラが出来ない様にする。
「よし…じゃあ次は「あ」の口の形だ。普通に話す時くらいの感じで」
「わかりました」
そして次は「あ」の形に。
クラウドは上唇に筆を滑らせる。
唇の縁、唇の中心から口の端へと筆を滑らす。
反対側も同じ様に。
「出来た。…仕上げに下唇と上唇を軽く合わせて噛んで口紅を馴染ませる様に少し動かしてくれ」
コスモスは小さく頷いてから口元を手で隠す様に覆ってから口紅を馴染ませる。
「じゃあ最後に…この布を唇で噛んでくれ」
クラウドは手当てに使っているガーゼを取り出してコスモスに差し出した。
「ですが…このままでは汚れてしまいますよ?」
コスモスはゆっくりとした動作でガーゼを受け取りながら言う。
「構わない。余分な紅を落とす為にする行為だ」
「そうですか。じゃあ……」
そのままガーゼを口に運び、唇で軽く噛んでから離した。それをクラウドは受け取る。
「完成だ。…コスモス、見てみろ」
クラウドは眼を細めてから女神に少し小さめの手鏡を手渡す。彼女はそれを手に取り鏡に自分の顔を映した。
「…………ああ」
驚きに眼を瞬かせ、思わず声を漏らす女神。
その鏡に写っていたのは、本来の美しさを取り戻した秩序の女神だった。
蒼白だった顔は僅かに頬を桜色に染めた明るい顔になり、そんな変化を見て色を取り戻した唇はいつの間にか驚きから笑みの形へと変わっていき、やつれた様に見えていた目元はそんな事をなかったかの様に色が飾られ、唇と同じ様に笑みを思わせる形に細められる。
慈愛が滲む女神のそれではなく、一人の女性としての笑みが、そこにはあった。
「とても、綺麗だ」
気が付けば、そんな言葉がクラウドの口を告いでいた。
その言葉に女神は鏡から顔を上げてからゆっくりと立ち上がり、クラウドを見た。
「……有難う、クラウド」
そして、満面の笑みを浮かべ傍に寄ってきたと思ったら、頬へのキス。
自分が施したしつこくない化粧の香りと、春の陽だまりの様な、温かくも柔らかい笑みが眼前にあった。
その笑みに眼が見開き、一気に顔が熱くなるのを感じ、
そして心臓がドクン、と大きく鳴ってクラウドの胸を締め付けた。
writer 芒谷
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WHITE以来です。どうも芒谷です。先ずこの二人がきた時は「……ちょっ、まさかの公式美男公式美女ですか?」とPCの画面見てツッコミを入れてしまいました。
そっからネタを考えるも、コスモスが完全にACのエアリスと被ってばっかりで「駄目じゃん」と絶望しながらDdffをしていました。
その時にやっていたのは足りていない蜂蜜の色香シリーズを揃えようとシャントットのひずみに通っていたんです。んでようやく揃って「ドレスキター!」と叫んでいる所にふと眼についたのが自分の化粧品ケース。その時閃いたのが『クラウドにコスモスの化粧やらせる』でした。「女装するなら化粧は必須だろ」と言う決め付けの下、書かせて頂きました。
クラウドファンの方、クラウドがおかしいのは見逃して下さい。本当にごめんなさい。
最後になりましたが主催者様方、今回はこの様な企画に参加させて頂き有難うございました。次の機会がありましたらまた是非とも参加させて頂きたく思います。そして素晴らしい執筆者の方々の作品に触れる事が出来た事を嬉しく思います。これからものんびりとではありますが精進していこうと思います。
それでは失礼致します。