それは誰でもない、
気高き姿に見惚れた。
自身の信念を曲げず、仲間を慈しみ、敵に容赦しないその姿は、まるでヴァルキリアのようで美しい。
彼女のストロベリーブロンドの髪がたゆたう度に、目が引かれているのも事実。
何か、忘れているかもしれない何かを、思い出せる気がした。
「相変わらず、無理をする」
「!……貴様は……」
所々にできた傷にケアルをかけていたライトニングの背後に男は現れた。
暗黒を表すような漆黒の鎧をその身に纏った彼――ゴルベーザは、表情のわからない声でライトニングに話しかける。
それに対し、ライトニングは警戒の眼を向けながら答えた。
「余計な世話だ」
「余計か……確かにそうかもしれんな」
ライトニングの言葉に素直に頷いたゴルベーザは、だが仕方がないと、彼女に向けて言葉を続けた。
怪訝な表情を浮かべる彼女に苦笑を浮かべながら、ゴルベーザは更に続ける。
「気になるのでな」
「気になる?……私がか?」
「そうだ。何故か目が離せんのだ」
「……それは、」
敵である者からの言葉に、ライトニングは言葉を途切らす。
自分が何を言ったのか解っているのだろうかと、眉間に皺が寄りもした。
そんな彼女の反応に、ゴルベーザは笑みを浮かべる。
自分の言葉で表情を変える彼女に、心が喜びを叫んでいた。
「そなたは、似ているな」
「似ている?誰にだ」
「わからぬ。だが、私にとって大事だったはずの者だ。その者は、美しく気高い存在だった」
そう、ここにはいない者のことを話すゴルベーザは、心なしか嬉しそうに見えた。
ライトニングよりも一回りどころか数回りは巨体の男が、まるで親のことを話す幼子のように話す姿に、ライトニングも力が抜ける。
男の感情が情景かなの恋慕なのかライトニングにはわからなかったが、とんだ惚れ気を聞かされたものだと脱力しただけなのだが。
「……思い出せ」
「何?」
「混沌の貴様がそこまで想う相手と私は似ているのだろう。だったら、思い出してどういう奴か私に話せ」
私に似ているというのも、興味がある。
彼女らしい表情を浮かべてそう言ったライトニングは、ふっと笑ってゴルベーザに背を向けて歩き出す。
優しく楽しそうな笑みを向けられて呆然としている間に、歪みへと飛び込んだ彼女は空間から消えた。
ゴルベーザ一人となった空間に静寂が訪れ、漸く我に返る。
男の口元は、今までに無いくらいに嬉しそうに緩んでいた。
この感情が誰かに抱いた情景故か恋慕故か、ゴルベーザ自身にもわからない。
だが、彼女が笑ったことに対しての感情であることに間違いはないと、そう思った。
それは誰でもない、あなたから生まれたのです
writer 神凪由良