WOL×ガーランド
すれ違っていた世界
穏やかな時の流れる次元城は秩序のやんちゃ坊主らにとって格好の遊び場だが、今日はビリビリと肌に突き刺さるような気配を本能的に感じているのか寄り付く者は誰もいない。
賢明な判断だ。頭を抱えたガーランドは真にそう思った。
重苦しい勇者の肩書きを持つライトは凛々しい双眸を細め、その称号に相応しい剣の切っ先をガーランドへと向けていた。口元は引き締まり、精神は恐ろしく研ぎ澄まされている。
傍から見れば待ち望んでいた宿敵との対峙に思えるのだろうが、溜め息しか込み上げて来ないガーランドは蛇に睨まれた蛙状態に陥りかけていた。
ライトは一度唇を歪め、苦渋に満ちた表情を浮かべる。しかしガーランドに同情の念は一切浮上しない。
切っ先がぶれ始めた。ライトは奥歯を噛み締めた後、沈黙を保っていた唇を開く。
「何故だ…試しもせず何故無理だと決めつける!」
「……いや、分かりきった事だろうが…」
「大人はこれだから!」
「案ずるな貴様も立派な成人だ」
ガシャンと盛大な音を奏でながら崩れ落ちたライトは地を叩き付けた。想いを共有して欲しい者に拒絶された、それだけで胸が張り裂けそうだ。
しかし諦めの悪い男、秩序のリーダー・ライト。願いを叶える為ならば何度でも立ち上がろう。
「よく聞けガーランド、我々は貴様が思っている以上に懐が深い。コスモスは女神ゆえに慈悲が初期設定だ」
そんな事一度たりとも思った事無い。口を挟むと面倒臭そうなので空を漂う異空間を見上げ遣り過ごした。
「故に貴様の秩序入りを咎める者など一人もいない!」
ガーランドは察していた。咎める者がいたとしたら必殺・三白眼で黙らせるつもりだ、と。
これは暫く距離を置いた方が良さそうだ。ガーランドは勝手に別居を提案する。もとより同居はしていないけれど。
しかし今のライトは相当気が立っている。力が同じだとして、勝負はやる気がある方が勝つというものだ。
戦う気などとっくに失せているガーランドはなるべく刺激の少ない言葉を思い浮かべ、並べた。
「…残念だが、考えの不一致だ。暫く別居しようではないか」
「なっ、そんな勝手は許さんぞ!」
勝手はそっちだろうが。
一瞬キレかけたが刺激の言葉は喉元でかろうじて飲み込んだ。
「さらばだ、光の戦士よ」
「待てガーランド!せめていってらっしゃいの口付けを!」
己の血管の切れる音が耳元で聞こえたが、ライトの言葉は聞こえないフリをして闇へと姿を隠した。
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