ガーランド×フリオニール


「あなたを見ていると、何故だかとても狂おしい気分になるんだ。悲しいというのは違う気がするし、嬉しいっていうのとも違うような気がする。ただただ胸が締め付けられて、死ぬほど苦しい。……本当にこれって俺の感情なのかな。どこか他人事みたいな気もしているし――それについては、はっきり「寂しい」って思ってるよ。うん、「俺」の「意識」と「感情」が乖離しそうになっていることが、ひどく寂しい」

瞬間、ガーランドの脳内世界に現れたのはフリオニールの腫れぼったい、ぐずぐずと赤くなってしまった両目の淵の情けなさだった。何度も見たその光景が、二つの網膜に強烈に焼き付いてしまっている。
ガーランドはただ無感動に――或いはそう装って――現実のフリオニールを見据えている。涙の一つも流していないフリオニールを。淡々と心情を吐露するそっけない、冬空の風情にも似たかんばせを。

「とても簡単な言葉で表現してしまうなら、俺はあなたを「好き」なんだと思う。好意を、感じている。色んな話をしてみたいとか、もう少し傍に寄ってみたいとか、なんだか生温い感情ばかりが沸いてくるんだ。あなたは敵のはずなのに、剣を向けることを躊躇ってしまって――罪深いことであるとさえ、思う。――おかしな話だよな。あなたとは今ここで出会ったのが初めてで――なんで俺、今さっき出会ったばかりの人にこんな話、してるんだろう」

無理に微笑んで見せた頬は痛々しく引き攣っている。小手越しにとはいえ、そこを掌で覆ってやればあの頬が柔らかく緩むことは知っていた。これまで数度、きっとフリオニールが望むとおりに頬を包んでやったことがあり、1度の例外を除き彼は安堵の表情を見せてくれたのだ。もう触れるまい、とガーランドが心に定めたのはたった1回前の輪廻での話だ。触れずにいた場合のフリオニールの表情などは知らない。ただあの痛々しい表情が深まってゆくだけなのだろう、という確信はある。
優しく触れる掌を待っていたのだろうか。10数秒、じっとガーランドを見つめていたフリオニールは、やがて諦めたように頭を掻いた。かき乱された髪の合間に覗く両眉は吊り上っていて、怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。どちらにしろ、痛々しい。

「なあ、俺には記憶がないんだ。この戦いが始まるまでの記憶がない。だからもしかすると、本当は俺はあなたのことを知っていて、ただ忘れているだけなんじゃないのかって気がする。全くの他人にこんな、重苦しい感情を抱くはずがないんだ。なぁ――ああ、俺、あなたの名前すら知らない。なあ、「あなた」。俺とあなたは、一体どんな関係だったんだ」

強張った表情でそう問いただすフリオニールは、己とガーランドの間になんらかの繋がりがあることを疑ってはいないのだろう。きつくガーランドを見つめる双眸は、前回の「初対面」とは違い一切潤んではいない。そんな事実に、ガーランドは一定の安堵を得る。
いつかは胸に取りすがられて、大泣きをされた。いつかは出会い頭に嬉しそうに笑い、やっと会えたと抱きついてきた。一度前は、ただ静かに泣いていた。
縁が遠くなってきているのだろう。つまらないことで繋がってしまったフリオニールとガーランドの、本当につまらない、愛情という名の縁が輪廻を重ねるごとに希薄になっている。むしろ輪廻を越えても断ち切れ切れない縁というものが異質極まりない。本来のガーランドにとっては不必要なものだった。それが綺麗さっぱり切れてしまうというのなら、実に喜ばしいことである。

「――なにも、なかった」
「そんなはずがない」
「何もかも貴様の思い違いだ、コスモスの戦士よ。わしは貴様の名など知らぬ。貴様が期待している繋がりなどにも、覚えはない」
「そんなわけが、あるものかっ」

ガーランドは鎧の中で目を閉じる。鮮明に思い浮かぶのは、1度前の輪廻でフリオニールが泣きながら望んだ、最初で最後のわがままだ。

『――抱き締めるつもりがないのなら、そんなに優しく触れないでくれ。もういい、もういいんだ、ガーランド。何回やり直しても、俺とあなたは結ばれない。――だってあなたにその気はないんだもんな。俺はあなたの一番にはなれない。だから――もういいよ。もしまた世界がやり直しになったとしても、次の俺はきっと、あなたのことを覚えてない。だからあなたも、俺には触れないで。次の俺が泣いてても駄目だ。――あなたが俺に触れていいのは、俺のために生きてくれる気になった時だけだ』

それは、できない。だからフリオニールには2度と、触れるまい。
――当たり前の決意をしただけなのに、酷い空虚が胸の中に巣食っているような気配がある。
ガーランドは背を翻す。剣を向ける気力はなかった。そうしたくないのかもしれない。いつかは確かに、愛情のようなものを抱いた相手だったのだ。

「おい、何処へ行くんだ!俺を、置いていくつもりなのかっ」

――自己完結をして記憶を捨て去り、さっさと先へ行ってしまったのはお前ではないのか。

泣き言でしかない不平を飲み込んで、ガーランドはひたすらに足を早めた。どこに向かっているかなどは知ったことではない。




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