セシル×ガーランド


事実か否かの検証


眉目秀麗な青年は然るべき場所で然るべき衣服を纏っていれば、それこそ老若男女、人類全般が放ってはおかないだろう。
それがどうだ、整った眉は垂れ下がり、雪のような頬は赤く火照り、薄い紅を引いた唇はだらしなく半開きだ。一番残念なのは凛々しい瞳。
常人ならば直視出来ないだろう醜い姿を映し出していた。

「あ、だめ、動かないでくれないか」
「…………」

ガーランドは困惑していた。
疲労と負った怪我により思うように動かない、倒れた身体に股がり、何の躊躇いも無く鋼鉄の兜を剥ぎ取ったのは秩序の常識人と認識していた筈のセシル。
そのままの状態でガーランドの頬を包み、ケアルを唱えたまでは良かった。
気まぐれの回復かと思いきや、これは綿密に織り込まれたケアルだった。打たれた頬は意識を保つまでに戻り、しかし身体の傷は一切癒されていない。
相変わらず動く事は叶わず、確かな力をもって跨がっているセシルを押し退ける事など到底不可能だった。

「あのね、お願いがあるんだけど」
「………」

セシルは変わらずだらしない表情のまま、ことりと小首を傾げる。常の彼を知っているだけあって、異常者に近い言動の願い事など聞く気は無い。
返事すら億劫だ。無言を貫く。

「キスしてもいいかい?」
「断る!!」

無言はさっくり一瞬で破られた。
いくら見目が良いといっても所詮男の唇だ。女のそれと違い柔らかくも心地好くも無いだろう。
いい加減セシルの相手に疲れたガーランドはこの状況から脱する為に必死に考えた。考えた結果、彼の兄であり保護者のゴルベーザを呼べば何とかしてくれるのではと至った。完全に他人任せだ。
しかしこの状態で如何にしてゴルベーザを呼ぼうものか。
身体は未だ思うように動けず、目前のパラディンは一体どんな方法を用いてここまでの手傷を負わせたのだったか。
最初の一撃は背後からだった気がする。卑怯極まり無い。

「んー…」
「って待てい!」
「ちっ」

物思いに耽っている間に抜け目なく迫っていた美形へ一喝。
一瞬歪んだ唇から舌打ちが聞こえたのは気のせいじゃない。

「もう!キスさせてくれたら回復してあげるから!」
「援交をねだるオッサンか貴様は!」
「ちょっとだけだから!お願い!」
「ちょっともクソもあるか!阿呆!」
「今ならライトもつけるよ!」
「ならば己が足で会いに行くわ!」
「なにそれやきもち!」
「やかましい!!」

言葉の攻防は激しさを増して行くばかりだ。
終息の見えない戦いに妥協案を見出したガーランドは痛む首を伸ばし、ぎゃーぎゃーうるさい二十歳児の頬に一度だけ軽く唇を押し当てた。

「っ」

セシルの時が止まった。
今が好機、大分体力の回復を果たしたガーランドは右手をグーに、セシルの横っ面を思い切り殴り付けた。吹っ飛ばされたセシルはというと、瞬きを繰り返した後に漸く現実を認識したようだ。

「っつー…いきなり何をするんだ」
「此方の台詞だ!わしもう帰る!」
「あっ!待って!」

混沌陣に与えられた最終奥義、どこでも瞬間移動を使用したガーランドの姿はまさしく一瞬で消え去ってしまった。
残されたセシルはキスをされた頬がズキズキ痛むが洗うのは控えようと決心した。





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