クジャ×ガーランド
いつだって紙一重
「いい加減にせんか…っ」
「まだ駄目!もうちょっと…」
時間にして五分は経っただろうか、胡座を掻いたガーランドの膝の上にどかりと我が物顔で座り込んだクジャは、色付けた己の唇をガーランドの唇に押し当てていた。
触れるだけ、ただ温もりを感じたいが為の行為。
あまり熱を持たないガーランドの其れも、クジャの執拗な口付けにより火照り始める。
時折クジャの熱を含んだ吐息に、年甲斐も無くぞくりと震えそうになるのを堪え、まだかまだかと終焉を待ち望んでいた。
「ふ…」
口を開けば喧しいが、見目麗しい青年に吸われる唇はさぞかし幸福者だろう、そう考えてみるが、されているのは自分自身だ。あまり幸せな事では無かった。
至近距離の長い睫毛が震える。
覗いたアメジストが悪戯に笑みを浮かべた。
「っは、もう止めんか!」
「っんー、大分掴んだかも」
ぺろり、唇を舐めとる仕草にガーランドは目眩を覚えた。
事の発端は何だったか、あまり記憶に無い。いつものようにクジャの我儘を適当な相槌であしらっていただけだったような気もする。
話は勿論半分も聞いておらず、内容もさっぱり覚えていない。
ただ何かの問いに、はいはいと答えたら大層喜んでいた、気がする。
気付いた時には唇を奪われていた。汚れを知らない少女でもあるまいし、その表現はどうかと思うが、事実だ。
問い詰めてみれば「好きな人へのキスの練習」だとか。
お前の見目ならばそんなもの抜きにしても有り余るのでは、と浮かぶも、男としてのプライドがあるのだろう。そして知らぬ間としても練習台になると返事をしてしまった自分も、まったく律儀だ。
漸く解放された唇から溜め息を吐くと、にこりと可愛らしくも妖艶な笑みを浮かべたクジャにより頬を包まれた。
「それじゃあこれからが本番だよ」
「は?」
呆気の為に僅かに開いた唇の隙間を縫って侵入してきた、クジャの唇と熱い舌の感触にガーランドは再び瞳を見開いた。
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