暗闇の雲×クジャ

 見た目は完全に大人の女性なのだが他の部分は限りなく無知な子供に近い。クジャから見た暗闇の雲の第一印象はこんな感じだった。
「暗闇と名が付いているものの、無色透明と訂正したほうが正しく思えるよ。キミの名前」
「無色透明の雲か。ふむ。悪くはないな」
「……気に入られるとは思わなかった」
 冗談が全く通じていない。子供らしい柔軟さでなんでも受け入れる暗闇の雲にクジャは調子を狂わされるばかりだった。どんな皮肉も皮肉と受け取ってもらえない。
「キミは人間に興味があるんだって?」
「ああ。いずれは無に還してやらねばならん連中だがな。彼らからは様々なことを学ばされる。面白い存在だ」
 絶対に消そうと考える存在に対し愛情にも似た言葉を述べる暗闇の雲。彼女は皮肉を込めて愛を語っているのではない。彼女に嘘は存在しない。
 だからこそ、聞いてみたいことがクジャにはあった。
「誰かから聞いたと思うけれど、僕は人間じゃない。こんな僕にキミは興味を抱くことが出来るのかい?」
「人間ではない? ほう。そうなのか」
 暗闇の雲はあっけらかんとした表情でクジャを見下ろす。
「ならば、おまえは人間よりも面白い存在なのだな」
「はぁ?」
「おまえは一分たりとて同じ顔を見せない。言葉を見せない。ふと目を向ければ常に新しいおまえがいる」
「え? え?」
「ほれ。今もそうだ。また違う顔をしている。狼狽するおまえの顔は可愛いのだな。うむ。覚えたぞ」
 少女のような汚れなき心からの笑顔。それは本心を語るときでなければ出来ない顔だ。
 クジャの狼狽はますます激しさを増すばかりであった。



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