クジャ×カイン
なびく金髪はひたすらに美しいと思えた。
金糸が縁取る青い眼はさながら宝石のようだと思ったし、なによりも気丈な色をのせたそれはどんなものよりもきれいだった。
はじめはただ見ているだけでよかったはずなんだ。
月の渓谷に佇む彼はほんとうに美しい。
それをもうひとつ高い岩場から覗くだけでよかったのに。
じわりと胸に広がるのはもどかしさと苛立ち。
いつまでも行動に映さない自分への非難。
「カッコ悪いよねぇ…」
全然美しくないよ。
独り呟いて、クジャはため息をついた。
きれいな彼に近づくにはあとどれくらいの壁を越えなくてはならないのだろうか。
いっそのこと彼と自分が宿敵同士だったらよかった。
その高貴な槍に貫かれるのなら、きっとそれで満足なのだろう。
不意に、背後で砂を踏む音が聞こえた。
気配は消しているくせに、足音は隠さないなんて間抜けだ。
「誰だい?」
「……なんだ」
お前か。
意外そうに呟かれたそれは大変失礼なものだったけれど、聞き捨てならないのはそれを紡いだ声。
嘘だろう。
信じられない気持ちで振り向けば、そこには煌めく金色を露わにしたカインが立っていた。
「…ありえない」
呟いた言葉にカインが首を傾げる。
「ねぇ」
抱きしめていい?
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