皇帝×セフィロス


突如現れるどこかの世界の断片と、突如消える銀の長い髪の仲間の剣士。
皇帝は、今回は気に入ったのだな、と、現れた木製の荘厳な扉をくぐった。
案の定、中は本が整然と、天井から床まで並んでいる。巨大な図書館だ。セフィロスが気に入るのも無理はない。クジャが先に見つけてしまったら、とられてしまったかもしれないが。
歩み進めると、はたしてセフィロスはそこにいた。だらしなく梯子に肘をついて床に座り、積み重ねた一番上の本をめくっている。
今まで見たどんな様子よりものんびりして見えた。楽しんでいるのだ。
天井に描かれたフレスコ画の天使たちも、彼を許しているらしい。
セフィロスが、顔を上げた。いつもの冷たい笑みはなく、無防備な、無表情だった。

「……しばらく、いるのか」

まさか顔を上げると思っていなかった皇帝は、少し動揺してから問いかけた。
セフィロスは意外にもまともに会話してくれる。

「ああ、……心配、するのか」
「まさか」

近付いて、上から覗きこんだ本の上にはびっしりと文字が書き込まれている。ところどころの図は、何やら可愛らしいもので、研究書の類ではないらしい。
セフィロスは没頭し出すと寝食を忘れる。元よりそんなものは必要の無い身なのかもしれないが、見知った人間が長い時間消えるのは好ましくない。
かと言って彼をここから引っ張り出すつもりもない。面倒だ。
自分の妥協した提案を呟く。

「……たまに、貴様が息をしているか、確かめに来ようか」

それは、セフィロスの佇むこの景色が愛しいという思いも、少なからず含んでいる。

「どうやって?」

皇帝のため息に、無垢な疑問が追い付いた。
セフィロスが立ち上がった。

「私の呼吸を、どう確かめるのだ」

迫る光った目。
どうやっても、何も、と、言葉を失った皇帝の唇を、セフィロスのそれが塞いだ。

「こう、か。なるほど」

すぐに離れて、勝手に納得して、セフィロスは笑う。
あまりに唐突過ぎて、皇帝にはなんの対処も出来なかった。セフィロスはまた座って、元の姿勢に戻ってしまう。
本に視線を戻したくせに、セフィロスは悠々、言う。

「楽しみに、待っていよう」

くくく、と喉を転がす笑い声。
皇帝は、自分の唇に指で触れ、呼吸を感知出来なかった不覚を恥じて、押し黙った。




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