皇帝×ジェクト
高貴の特権
すん、と鼻を啜るジェクト。目が腫れて、白眼が赤くなっている。黒色の髪を掻き分けて、脳天に口付けてやった。太腿の上の頭が甘えるように動いて脚に巻き付く腕の力が僅かに強くなる。また、すんと鼻を啜る音がした。
「涙する者と言うのは実に愛いな。弱者然として、愛で甲斐がある。特にお前のような強者ならば尚更だ」
そう皇帝が揶揄ると、煩いと言うように腕の力がより強くなる。ぎし、と嫌な音がした。
「おっきくてかわいいにゃんこが、ひっでえ飼い主に、珍しく甘えてやってんじゃ、ねえか 」
また、ずりと太腿に頭が擦り付けられる。皇帝は溜息を吐いた。苛められる度にこれでは、と思う。普段、ジェクトは豪放磊落、大胆不敵でなかなかに自身過剰な男だが、それもこれも高くも脆いプライドと繊細な心を防衛する手段なのだと言うことは皇帝しか知らない。
「おれ、馬鹿じゃねえもん…からかわれる事だって、してねえし、笑われる筋合いも、ねえもん…」
またか、と思うだけで口には出さない。 お望み通り、優しく優しく、女性を慰めるように頭を撫でてやる。ずると太腿の上の頭が動いた。赤い瞳がじっと皇帝を見つめる。
「もっと…」
やはり愛で甲斐がある、とまた口には出さず求められるままに、大きな子猫を撫でる。 人知れず、皇帝は優し気に微笑んだ
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