カイン×フリオニール

「……」
妙にくすぐったい気配がして、夜中にふっと目が覚める。またか、と思いながら胸元に視線をやれば、案の定いつの間にかこちらの布団に侵入したフリオニールが穏やかな寝息を立てているものだから、もう一度またか、と。呆れとも愛しさともつかない嘆息を零し、硬い体を抱き寄せた。
寝息が首筋を擽るまで、侵入者の気配に気付けないのは――思うに、俺がどれだけこの青年に気を許しているのか、という証明になるのではないだろうか。
これで5度目である。1度は朝になるまで気付けなかったこともあって、あの時ばかりは戦士としてこれはどうなのだろうと頭を抱えたものだった。意識のない俺の胸元に、これほどまで悠々と接近できる者は彼だけだと思いたい。
「ん、」
背中を擦れば吐息が漏れた。緩んだ口元が愛しくて、衝動のままに彼を強く抱きしめる。彼が俺の懐にいる間は、何をしても目を覚まさないということをこれまでの経験で知っていた。キスをしてみた時にもむずがる程度だった時などは、さすがに無防備すぎると戦士としての彼に不安を感じないでもなかったが、目も覚めないほどの安堵がこの胸の中にあるのだと考えてみると誇らしさのようなものが沸いて止まらないというのだから始末に負えない。彼に頼られているということが、素直に嬉しかった。

『目が覚めるとカインがいなくなってしまっていた、って夢を見たんだ。だから、その……ええと、こ、怖くて。現実になってしまったらどうしようとか、さ……』
『それで跳ね起きて、俺のところへ潜り込んできたというわけか。お前は偶にそういう、どうしようもないが可愛らしいことをするんだな』
『どっ、どうしようもないとか言うな!……まあそれは最初だけで、今は寝心地がいいからお邪魔してるんだけどさ。案外体温高いよな、カイン』

一体、俺の何が彼を不安にさせたというのだろう。夢は頭の中にある情報の再現だ。彼の中に「俺がいなくなる」ことへの不安があるからこそ、そういった夢を見る羽目になる。
誠実な男ではない、とは自覚している。いざという時にはどんなものも捨てられる覚悟があるし、それが間違っているとも思わない。どんなもの、にはきっとこの胸元の存在も含まれているのだろう。それを察して不安になっているのだろうか。だとしたらそれはもうどうしようもない。俺は「そういう」男なのだ。今更、愛情の一つで自分というものを変えられるものだろうか。

『――俺たちにはいつ何が起こるかなど分からない。だから俺はお前に、ずっと傍にいると約束することはできない』
『カイン、』
『しかし俺は、俺の力の及ぶ限りお前を守ろうと思っている。お前を失うのは耐え難いことだからな、フリオニール』
『……見くびらないでくれよって、思う。俺はそんなに弱くはないって。でも――おかしいな。カインのその気持ちが、とても嬉しいんだ』
『見くびってなどいないさ。それでもこうして宣言したくなるほどに、俺はお前を大切に思っているらしい。信じてくれるだろうか』
『信じるよ。あなたが嘘を言ったことなんて、ないもんな』

そう言って笑ったフリオニールが愛しかった。本当に、全身全霊をかけて守ってやらなければならないと思った。信じてくれ、なんて。そんな言葉はどこかに後ろ暗い思いを抱えているからこそ出てくるものだというのに。


――それでも、嘘ではないんだ、フリオニール。お前への愛しさだけは決して嘘ではない。



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