カイン×皇帝
歪な心の移り変りは本来人間らしいものである。ああ、あのような光の勇者になれるのであれば、誰も苦しむことはない。妬みで胸を焦がすことも、仲間を裏切る事も。
カインは浅く息づき這いつくばる皇帝に止めをさすことはなかった。けれでまるでその行動で侮辱されたような顔をしてマティウスは睨み上げた。
「貴様、何のつもりだ…」
「口が聞けるなら、命に支障はない、皇帝よ」
「私を生かしてどうするっ…!」
「勘違いするな。お前を倒すのは俺ではないだけだ」
決着をつけるべき宿敵はほかにいるだろう、と甘い言葉を言うこの男もコスモスの戦士かと、皇帝は悪態を吐く。
握った槍をカインは放さなかった。
「俺にはお前を裁く権利が無い」
と洩らした声に更に眉を寄せる。罪人が罪人を裁くことは出来ないと?
「お前は自覚してもなお、そちらにいるのか」
かつては友と仲間を裏切った。 それは秩序でも善でも悪でもなかった。ただ愛しい人に触れたかっただけなのかもしれない。
「皇帝、欲望は悪だ」
「…ほう」
感情を殺してまで手に入れる現実に何の意味がある?悪魔が囁いてカインは背筋が凍る。
自分は自分を許せなくなる。それはどちらの選択肢を選んでも同じだった。
目の前の悪は何故こうも美しく曇りが無いのか、ああ、
(例えば、その手を踏み躙る衝動に駆られるのが愛)
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