ラグナ×ガーランド
逃避行
彷徨い歩くなんて可愛らしく青臭い表現は不釣り合いで、嘆く事は後回し、今は迷路を進む足を早めた。
目的はただひとつ。この迷宮からの脱出である。
甲斐甲斐しく仕掛けられた落とし穴や水浴び攻撃の罠を潜り抜け、そして辿り着く幾度目かの行き止まり。これで引き返しを強要されたのは両手の指の数を超えた。
飽き飽きした壁に遠慮の無い溜め息を溢し、くるり振り返る。するとワンテンポ遅れていた男が目を瞬かせるのだ。これもいい加減見飽きたものだ。
「ありゃ、また行き止まりかぁ」
長い黒髪に手を突っ込み、がしがしと無造作に掻く男は呑気な欠伸を漏らしていた。
何故か道中を共にしているのは決してガーランドの意思では無く、ラグナの独断だ。独断というより、彼にとって当然の行為なだけだが、ガーランドは鬱陶しいと無視を決め込んでいる。
しかしこの男はよく喋る。放っておいてもべらべらと飽きもせず、皇帝は趣味と性格が悪いだの(これには賛同出来る)、暗闇の雲は目の毒だの(己の抑制能力が乏しいだけだ)、ゴルベーザは何らかに縛られているような気がするなど(時々鋭い)、疲れた腹減ったは常套句になっていた。
「なぁ、俺ちょっと思った事があんだけどさ、聞いてくれる?」
「有益な情報ならば耳を貸そう」
「あんがとさん」
一方通行だったお喋りの矛先が向けられ、ガーランドは渋々無視を解く。
人好きのする笑顔を浮かべるが、自分に対しては無効だと言わんばかりにじっと見つめた。
するとラグナは嬉しそうに人差し指をぴんっと立て、喧しい口を開く。
「この迷宮はきっと俺の願望が具現化されたものなんだよ。お前さんとずっと一緒にいたい、離れたくないっていう!」
「なるほど、貴様の脳内はお花畑というわけだな」
能天気に花を飛ばしている男を殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られながら、ガーランドはより一層の無視を決め込んだ。
恐らくフリオニールの為に皇帝がせっせと拵えたものだろう。しかし恨みの矛先はガーランドの外套を掴み飛び込んだラグナだ。迷宮を抜け出した後に皇帝ががみがみ文句を言ってくる事は目に見えているので、今のうちにラグナへの報復を考えておくべきだろう。しかしどんな皮肉を言っても、酷い仕打ちをしたとしても、この男はめげないのだろう。そんな気がしていた。
「籠の鳥だぜ〜!」
今もこうやってへらへらと楽しそうに抱き着いてくる。籠の鳥はお互い様だろうに。
ガーランドは握り拳を作り、全く反省の色を見せない若造の頭に思い切り突き落とした。
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