ラグナ×フリオニール

「おお……ふむふむ、こことここが連動して……それでここから……」
「わーわーわぁぁぁフリオニール君っ!」
「わっ!?」
「銃口覗きこんじゃだめだって言ったでしょ!」
「あ。はは、ごめん。いつの間にかすごく熱中してたみたいだ」
そんなものは見ていれば分かる。そう返す代わりにラグナは深い深いため息をついた。無意識に胸へと押し付けた右手の下で、跳ねる心臓が激しく脈を打っている。そんなに慌てる必要はない、と軽く胸を叩いてみるも、一旦緊張にせっつかれた心臓は急に落ち着くことはできないらしい。今なお激しい鼓動音を立てながら、ラグナの平静を掻き乱しにかかっている。
「えっと、次は気を付けるからさ。だからもうちょっとその武器、銃だっけ?見せてほしいな。今度は本当に気を付けるから!」
ラグナの動揺など知ったことではない、と言わんばかりにおねだりを繰り出すフリオニール。先ほどの失態を恥じているのか、頬がうっすら紅色に染まっている。
――ああかわいいなぁこんちくしょう。
いくつかの諦念とともに、ラグナは取り上げたばかりの銃を差しだした。ぱあ、と輝くような笑顔を見せるフリオニールはやはり可愛らしい。愛おしい、とすら感じている。それこそ彼の興味を独り占めする己の武器、言わば相棒と呼んでも差し支えない存在につまらない嫉妬をしてしまうくらいには。
「……そんなに楽しい?」
「ああ、とても!結構色んな武器を揃えてるつもりだったけど、こういうのは手持ちにないからさ。俺だったらどうやって使おうかな、とか考えるのがすごく楽しいよ」
「……そーですかー」
キラキラキラ。どこからかそんな効果音が聞こえてきそうな、実に輝く笑顔を浮かべるフリオニールである。彼が年相応に笑っていられる、この穏やかな時間すら愛しく思う。新しいおもちゃを与えられた子供のようにはしゃぐフリオニールは、もう抱き締めて頭をうりうりしてやりたいほどに可愛い。
これで――フリオニールの笑顔が向けられているのが銃ではなく己であったのなら、この空間は訳の分からない異世界に突如出現した幸せゾーンになりえたはずなのに。
ラグナはフリオニールの視界の外で、今度は小さな溜息をつく。いかめしい武具に夢中の青年は、やはりラグナの微妙な心境を察してはくれない。キラキラキラ。食い入るようひたすらに、鈍く光る銃身を見つめている。
「見た目通り重いんだなぁ……これで殴られたら痛そうだ」
「……おーい」
「あれ、でもそしたら曲がっちゃわないか……?そしたら弾が詰まるんじゃ……」
「もぉ、フリオニールっ!」
「うわぁ!?」
フリオニールにとっての幸せゾーンを破壊する覚悟で、ラグナは彼の背中を抱き寄せた。そんなフリオニールは胸の中にしっかりと銃を抱えている。落としてしまわないように、咄嗟に抱え込んだのだろう。ラグナは口先を尖らせて、そのまま目の鼻の先の頬へ乱暴に口付けた。
「え、え、な、なんだ急に」
「そろそろ俺も構おうぜ、フリオニールちゃんよー。いい加減ちょっと寂しいぜー、いや、もう「ちょっと」なんてもんじゃなくて、ものすごぉぉく寂しいんだけどねっ!」
「えっ」
振り返ったフリオニールの両頬が、絵の具を塗りつけたかのように赤く赤く染まっている。戸惑ったように目を泳がせる表情の頼りなさと言ったら、もうどこまで人の庇護欲をかき立てるつもりだろうか。たまらない気分になって、ラグナはフリオニールの首元に熱くなった額を押し付ける。フリオニールの愛しさや子供じみた己の言動への気恥ずかしさが入り乱れ、頭の中はとっくの昔に煮立っていた。
「……しょうがない人だなぁ」
頭のてっぺんに降り立つ優しい熱。目線を上げてみると、軽やかなキスをくれたのだろうフリオニールが言葉通り、しょうがない人ね、といった風に笑っていて、さすがのラグナもばつの悪い気分になる。
ちくしょう、好きだー
独り言のように呟くと、いよいよ声を上げてフリオニールは笑い出す。その目に映っているのはどうやら自分だけのようなので、少々の悔しさを飲み込んでラグナも同調するよう笑い声をあげた。



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