ラグナ×暗闇の雲
あっけらかんとして笑顔で持って、よく懐いた犬のように駆け寄ってくるのはラグナ・レウァール。暗闇の雲にとっては敵である。
しかし彼にとってはそうでもないのか、甘い匂いの下箱を突き出して、座ることを促してくるのだ。
「この前、ちょっと愚痴言っちゃっただろ、俺。内緒にしてもらおうと思ってケーキ、作ってきた」
「けーき?」
「そ、あまーいお菓子だよ」
彼が開けた箱の中には、白くて頼りないものが、赤い果実を冠して座っていた。暗闇の雲は興味が沸いて、大人しくラグナの正面に座る。
触手たちが暗闇の雲の気持ちを代表して、わくわくと横に揺れていた。
ラグナはよしよし、とスプーンで白いケーキを切り取った。ふわりと千切れるケーキは、白の奥に黄色を隠していた。その間には果実と同じ赤も、ところどころ。
「食べ物か」
「そうでっす。はい、あーん」
ラグナが切り取ったケーキを乗せたスプーンを暗闇の雲の唇の前に突き出してくる。
雲は理解して口を開けた。滑り込んでくる甘くて柔らかいもの。
雲の表情が緩むのを、ラグナは見逃さない。
「気に入った?」
「ああ」
「じゃあ、内緒にしてくれるかな」
口の端に付いたクリームを舌でぺろりと舐め上げて、雲は頷く。
「こんなうまいもの、他には教えられんな」
「そっちかい!」
完全に暗闇の雲の意識はケーキに向かっていた。ラグナがそうじゃなくて、と説明しようとするのも聞いていない。
それよりも、作った名残なのだろうか、ラグナの頬に乾いたクリームを発見する。考えるまでもなく舐めとる。
硬直するラグナ。
「な、なにす……」
「うまい」
「足攣ったぁああああ!!!」
座っていたはずなのに崩れるラグナからケーキの箱を奪って暗闇の雲は彼を見下ろした。
地面にごろごろしているのはほっておいて、とりあえず手づかみで食べることにする。
しかし、食べさせてもらう方が味が良かった気がするので、少し我慢して、ラグナの回復を待つことにした。
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