クラウド×ガーランド
影踏み
カシャンと響く硬質な足音に次いで、聞こえてくるのは踵の低いブーツの足音。
ぴったりと寄り添うようにして追い掛けてくるその音に無機質な感情を浮かべ、歩みを止めた。
振り返ると在る、尖った髪が一度揺れて停止した。
小柄な身体はガーランドの影に全て隠れ、僅かな光も纏わない。
「用があるのなら簡潔に述べい」
「…いや、特には」
「ならば去れ。目障りだ」
踵を返し、歩みの速度を上げる。
しかし背後からの足音は止まず、耳障りにカツカツと焦りを浮かべていた。
彼の意図は掴めないが、身長差が大分あるのだ。ぴったりと後をつけるつもりなら焦りもするだろう。
一体何処までついてくる気なのか。
再度足を止め、振り返る。
見上げる不思議な輝きを持ち合わせた瞳とかち合った。
「いい加減に…」
「アンタの」
精一杯背を伸ばし、僅かでも小柄さを失おうとする姿に苦笑を漏らした隙に言葉を遮られた。
真摯な瞳は獰猛さを含み、気力無く戦う普段の彼を想像するには難しい。
獣はガーランドの外套を掴み、ちゅ、と口付けた。
「アンタの影になりたいんだ」
目眩を感じた。
遠回しの言葉を瞬時に解釈した自分を呪った。
「阿呆が。くだらん戯れ言を言う暇があれば真面目に闘争に参加せんか」
「真面目に戦ったら伴侶になってくれるのか?」
どうしてそうなる。
顔を押さえた指の隙間から見えたクラウドの瞳はきらきら輝き、どうやら本気らしい様子が窺えた。
ならばこの手を使う他あるまい。
「…そうだな、考えても良い」
「よしっ!」
拳を握り締めたクラウドにガーランドはしめしめと口端を上げた。
使うだけ使ってあとはポイよ。
悪徳代官さながらの思考に自ら賛美していると、視界がぐらりと揺れた。
「それじゃあ前払いという事で」
「…は?」
目前には、にんまりと微笑むクラウド。普段は人形さながらの美を持ち合わせた顔が悪戯に歪んでいた。
現在の状況を確認する。
姫抱っこだ。
「いや貴様、降ろさんか!どんな腕力しとるんだ!」
「安心しろ、軽いから」
ふ、と微笑むクラウド。
そんな優しさはいらない。
逆に悲しくなってきたガーランドはじたばたと抵抗したが、びくともしない相手にがくりと肩を下ろした。
楽しそうな鼻歌が聴こえてくる。かなりご機嫌のようだ。常はむっすりと表情を変える事が無いというに、この変貌っぷりには戸惑いを覚える。
しかし、それを嬉しいと僅かでも感じてしまった自分に、頭を抱えた。
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