コスモス×WOL
title:全てを、差し出そう
コスモスは彼の背中を見つめる。
押し寄せてくる大量のイミテーションを倒す、その背中を。
皆を守りたい。その言葉に嘘偽りはない。だが、誰よりも守りたいのは、眼の前にいる彼―――ウォーリアオブライトだ。
この想いはいつから胸にあったかも判らない程、昔からだった。
何度前の戦いだったかも覚えていない。
戦いが始まる度に彼は自分の前に膝を付き、恭しく頭を下げ、自分の置かれた状況を理解する度に、その意志の強い眼を向けて言うのだ。
「それが貴方の望みならば、私は誓おう。戦いを終わらせ、世界に希望を齎すと」
ずっとずっと変わらない。
自分に向けられるその瞳も、心も。
それにどれだけ安らぎを覚えたか。
だがそれが恋心だと気付いた時、戦慄した。
きっかけは彼が深手を負って聖域に戻って来た時。
彼が消滅してしまうのではないかと恐怖し、取り乱し、涙した。
他の者が同じ様な事になった時は心配はすれど、我を忘れてしまう事などなかったのに。
気付いてからというもの、それを忘れようと焦った。
愛してはならない、焦がれてはならないと。
そう考えれば考える程に、胸の内にある思いは膨れ上がって行く一方だった。
自分は主<神>。彼は従者<駒>。
「ぐっ!」
その時、ウォーリアオブライトがその場に膝を付いた。
「っ!?」
コスモスは眼を見開き、台座から立ち上がった。
甲冑に皹が入り、彼自身の傷も多くそして深かった。
―――彼が、消滅してしまう。
「――――!」
その時、自分の口から出た言葉が彼の名前だと本能的に悟ったと共に、コスモスは決意をした。
―――全てを忘れよう。彼の存在を、守る代わりに。
そして彼女は彼を庇う様に前に出る。
「コスモス!」
悲鳴にも似たその呼び掛けに振り向く事無く、コスモスは己の力を解き放った。
――――――――――
全滅したイミテーションの残骸は、淡い光を受けて優しく輝いていた。
コスモスは倒れているウォーリアオブライトへと歩み寄り、傍に膝を付く。そして頬に触れ、笑みを浮かべた瞬間涙が零れた。
「………愛して、います」
嗚咽が混ざる声で精一杯、それだけ言う。勿論彼には届いていない。
そっと頬から手を離し、彼女が眼を伏せた瞬間、荘厳な竜が姿を見せ―――コスモスは意識を手放した。
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