WOL×プリッシュ
名のない戦士がウォーリアオブライトに生まれ変わった瞬間。
彼はそれまでにない感覚に陥った。
宇宙色の亜空間に脳みそだけが滑り込んで浮ついていた意識がすとんと着地したような。
肉体は重く腹は減り、少しだけシャントットに臆するようになった。
以前よりコスモスに傾倒し、より鍛錬に励むようになった。
プリッシュの後をついていくことに不満を感じるようになった。
彼を光の戦士と名付けたのはプリッシュその人。
拾った時に光り輝いていたからだそうだ、安易である。
プリッシュによって命を繋ぎとめられ、プリッシュによって人となったイミテーション。
彼は、心をもった。
「プリッシュ、博士が待っている」
「お前学習しろよなぁ、まーた実験されちまうぜ?」
「プリッシュ」
「どうかしたか?」
「君がつけた名前を呼んでほしい」
「は?」
「コスモスは呼んでくれた」
「…………子供か」
うっかり肯定しかけて、飲み込む。
子供というものを彼は知らない、シャントットの揶揄で学んだくらいだ。
間違った知識ながら的を射ているからかいを真っ向から教授していたから、仲間からどのように見えているかを理解していた。
そういった経緯で飲み込んだ言葉。
自分は子供だけれど子供ではいたくないという葛藤。
手を引かれるのはなく肩を並べたい、その拳に打ち勝てるようになりたいと。
「君が名付けたのだろう」
「拗ねてのか?珍しい、お前もワガママする日が来たんだな、反抗期ってやつか!」
「…プリッシュ」
「……気恥ずかしいんだよ」
「プリッシュ」
両腕を掴んで顔を覗き込む。
真摯な表情から垣間見える男の色に、慣れていないプリッシュは訳もわからず頬を赤らめた。
静かだけれどよく通る声で繰り返される催促。
食堂がむずむずとかゆくなる感覚でついに根をあげて開き直ったプリッシュが頭突きをかます。
両腕を抑え込まれながら脚力だけで飛び上がるのは流石といえよう。
光の戦士となった彼も痛みに悶絶している。
「俺が呼ばなくたってな、お前はもうお前なんだぜ?」
前置きをしてからひとつ息を吸い込み、凛とした音がなる。
「ほらな、お前の名前だ」
「…君に呼ばれるための名だ」
「臭いセリフ!」
真っ赤になった羞恥を隠す満面の笑みは彼の目には殊更、鮮やかに記憶された。
彼には心がある。
プリッシュと育んだ心が。
その心を大切にしたいという願いが。
光の戦士は何度も生まれ変わった。
そこにプリッシュはいなくても、彼の命を護った彼女はずっと息づいている。
彼の心はここにある。
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