プリッシュ×フリオニール
腹の上が暖かかった――そして重かった。
フリオニールは難儀して寝返りを打つ。なにかそれなりの質量をもったものに覆い被されている気配があって、しかしまだまだ微睡んでいたい朝のこと、目を開けて「それ」の正体を確認することすら酷く億劫だった。
「っん〜……」
自分のものではない寝息が耳元を擽った。ぐずっているような気配があったので、フリオニールは思わず「それ」の「背中」へ手を伸ばす。丁度、「それ」を抱き込む形になっているようだった。暖かい。腹から重みが去った今、ここにあるのは温もりがもたらす安堵のみである。
誰かが隣にいてくれるということは、これほどまでに人の心を解きほぐすものなのか。
そんなことを思いながら口元に笑みを浮かべ、フリオニールは微睡みを再開した。とんとんと「それ」の背を叩いてやれば、胸元に寄った熱源が今度は心地よさ気な寝息を漏らしだす。どこまでも穏やかな朝だった。――が、
(……あれ?俺昨日は一人でテントに入って……だから、えっと、あれ……誰だ、これ……?)
一つ疑問が噴出すると気になって仕方ないもので、穏やかな朝の空気はほろほろと去ってゆく。
顰められた眉の下、重い瞼をフリオニールは緩慢に持ち上げた。焦点を合わせるべく瞬きを繰り返せば、開ききらない瞼の隙間から数滴の涙がこぼれてゆく。そうして滲む視界にぼんやりと現れたのは――
「……!!」
顔見知りの少女だったので、背筋が凍るような衝撃とともにフリオニールは跳ね起きた。
「んー……あ、こらー……寒いぞふいおにぃるー……」
むにゃむにゃとした、呂律の回らない声はいやに甘ったるい響きを纏っていた。しかしごくりと喉を鳴らす暇もなく、フリオニールは再び寝床の中へと引っ張り込まれてしまう。力づくでフリオニールを引き倒した腕力は、到底寝起きのそれではない。しかしフリオニールの真正面にある少女の顔はそれはもう「微睡んでいます」と言わんばかりのもので、半分だけ開いた唇からは既に寝息に似た呼吸が漏れている。
「……プリッシュ、もう朝だぞ。起きなきゃ」
「うぅんあと5分ー……」
「大体……なんで君、こんなところにいるんだよ……一体いつの間に……?」
「いやー……だってほら、昨日の夜、寒かっただろ?だから、フリオニールんとこ潜り込んでやろうってー……」
「……なんで俺なんだよ?」
「だってお前、あったかいし」
徐々に目覚めだしているのだろう、第一声に比べれば余程しっかりとした声を発するプリッシュは、へへ、ともふふ、ともつかぬ気の抜けた笑い声を漏らし、フリオニールの背中を抱き寄せた。フリオニールがあわあわと頬を紅潮させていることなど気付く素振りもない。
「……女の子がこういうことしちゃ、ダメだ」
「ええ?俺とお前の仲じゃん、今更ー」
「それとこれば別っ。まったく、本当にびっくりしたんだからな」
「そ?ごめんなー」
じゃれるような謝罪である。フリオニールは溜息を漏らし、行き場のない腕をそっとプリッシュの背に回した。やはり暖かくて、安らぐのだ。心地よい幸せに満ちた朝である――ばくばくと落ち着かない心臓を除いては。
「ま、いいじゃんたまにはこういうのもさ。思い出作りだよ、思い出!」
「こんな思い出ばかりじゃ俺の心臓持たないよ……」
「なんだよ、だらしないなー!」
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