プリッシュ×皇帝
迷い子はあてなく歩く。
見たことのある建物、離れてしまった人の面影、それらを追って少女は歩く。
明け方まで降っていた雨で濡れた地面と乾燥した空中の最中にいる。
ほろほろと光を照らし始めた太陽が正午を伝えて少女は、やっと見慣れた道を見付け出したところだった。
目的の狭い小路を前にして、金に染まった長身の人影に思わず息を潜めた。
皇帝は少女を見下ろし、少女は不思議に首を傾ける。
「お前新顔だな、何やってんだ」
「海……海を見ていた」
「うみぃ?」
「ああ……貴様は知らぬか」
不躾に喋る初対面の男はここに来たばかりでぼんやりと記憶を探っている。
優しいまなじりで囁くのだ。
「世界を取り囲む大きな水溜まりだ、人間が生きていけない場所……貴様の膨大な生命力も簡単に消えよう」
慇懃な所作で差し出された手に、ぞくりと背筋を凍らせた少女はなりふり構わず走り出した。
眼前に広がる海が肺を圧迫し、今にも窒息しそうになりながら。
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