ガブラス×ガーランド
この痛みの名は
季節と心は移ろい行くもの。
そんな少女染みた感情は持ち合わせていない筈だが、胸の内側をつつかれる痛みに眉根を寄せた。
掴んだ剣は持ち主の信念の如き重さを持ち合わせ、訝しげに頬筋を引き締めたあと興味を失い、放り出す。ガシャン、静寂の中で響く音はとても耳障りだ。ガブラスは頭を振る。忌々しい胸の痛みを掻き毟り、投げ捨ててやりたかった。
罪を重ねる事に慣れた心は、連なる痛みに耐える苦しみをすっかり失念していた。からこそ、続く世界に疑問を抱かずに済んだのだろう。
けれど、この胸の痛みは。
つきん、つきんと存在を強調するのだ。無視は不可能だった。けれど認めるには年を重ね過ぎた。
「何をしておる」
放り出した剣の持ち主は訝しげな声色で放つ。
ぎくりと小さく肩を揺らしたが恐らく気付いてはいないだろう。ガーランドは重々しい鎧を響かせながらガブラスへと近付き、目前に転がっていた己の剣を掴んだ。
放る程度で刃零れを起こすわけもなく、それでも手持無沙汰に剣をぐるりと見回した。
「何も」
やがて遅れて届いた返事に、ガーランドは一瞬何の事かと瞬くが、先程の問いの答えかと納得した。
何も、と言う割には酷い顔色だった。鎧兜を外している所など数える程度しか見た事が無いのだから通常なのかもしれない、そう思う事にした。
つきん、つきん、胸の痛みが脳まで侵していく。ガブラスは顔を背ける事でそれを緩和させようとした。だが痛みは増すばかりだ。
「貴様の考えは分からんな」
一言そう言い残したガーランドは己の剣を引き摺りながらこの場を後にした。
崩れた瓦礫の奥へ消えてしまったガーランドの姿を視界の端で確認したガブラスは、重々しい鎧で膝を付く。
己の剣を取り出し、目前に突き立てた。そして項垂れる。
他人の自分の考えが分かって堪るものか。己自身でさえ分からないのだから。
「この痛みを知っているか」
掛けた問いに答える者は、いない。
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