皇帝×ガブラス
殴打、殴打、殴打、らしくない狼狽だとガブラスは血だまりに伏せながらまるで冷静だった。
高貴と狗の遺伝子が混ざり合った血だまり。
自らを殴りつける皇帝を、ガブラスは上目に見ているだけ。
あってはならぬ、あってはならぬ……読経のように呟く様は正しく混乱であったが、状態異常でないことは明確だった。
錯乱に苛まれて流れ出た血を拭うでもなく鈍い金色の鎧につたわせたまま、狗は地に伏せる。
錯乱する様は滑稽だ、鼻で笑いながら。
(私を愛するなど滑稽だ、喜劇の極みだ、あってはならぬ…)
混ざり合う赤は同じ赤でどちらのものか判断がつかない。
ガブラスは思う。
煌びやかな金色から湧き上がる生命も己も素は同じ血肉なのだと。
ここから動かず、錯乱でなくなることを祈りながら。
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